牛パラインフルエンザウイルス3型国内流行株の分子疫学解析
要約
牛パラインフルエンザウイルス3型はA~C型の3つの遺伝子型に分類されているが、わが国の流行株は2008年まで全てA型であった。2008年に初めてC型ウイルスが確認され、それ以降分離される株の50%以上はC型となっている。
- キーワード:牛パラインフルエンザウイルス3型、遺伝子型C、牛呼吸器病症候群、抗原性
- 担当:動物衛生研究部門・ウイルス・疫学研究領域・牛ウイルスユニット
- 代表連絡先:
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
牛パラインフルエンザウイルス3型(BPIV3)は牛呼吸器病症候群の主要な病原体である。近年、感染防御抗原であるHN蛋白質遺伝子の解析で、従来と遺伝子型の異なるBPIV3が海外で分離され、新たにB型、C型が分類されたが、これらのわが国における流行実態は明らかにされていない。また新たな遺伝子型に分類されるウイルスの病原性や、既存ワクチンによる防御効果などについても知見が限られている。
そこで、本研究では2002年から2019年の牛パラインフルエンザ野外発生事例から73株のBPIV3野外株を分離し、分子系統樹解析により遺伝子型別を行う。さらに野外流行株の抗原性状の解析を行い、現行ワクチンの有効性に関連する知見を得る。
成果の内容・特徴
- 収集した野外BPIV3分離株を遺伝子型別したところ、2007年までA型の比率は100%であったが、2014年および2019年ではそれぞれ52%、49%と減少している。その一方、C型の比率が増加傾向にある(図1)。またB型に分類されるウイルスは現在のところ国内で見つかっていない。
- 分子系統樹解析によりA型ウイルスはA1,A2,A3の3系統に分類されてきたが、新たに4系統目のウイルス(A4)が2012年分離されており、わが国に流行するA型ウイルスには多様性が認められる。C型は遺伝的に均一である(図2)。
- C型ウイルスの国内初分離は、これまで2012年とされてきたが、本調査により2008年の検体からも分離される。
- AまたはB型ウイルスにより誘導される抗体は、いずれの遺伝子型のウイルスに対しても中和活性が高いが、C型ウイルスにより誘導される抗体は異なる遺伝子型のウイルスに対して中和活性が低い(表1)。
成果の活用面・留意点
- A型ウイルスが誘導する抗体の広域交差性が確認されたが、必ずしも現行ワクチンの有効性を保証するものではない。
- C型ウイルスの病原性についてはさらなる知見の集積が必要である。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2016~2020年度
- 研究担当者:熊谷飛鳥、菅野徹、川内京子(北海道十勝家保)、田中勝貴(鳥取県倉吉家保)、畠間真一
- 発表論文等:Kumagai A. et al. (2020) Vet. Microbiol. 247:108774
doi: 10.1016/j.vetmic.2020.108774.