牛疾病に関わる病原体を同時に検査する診断システム

要約

本研究において開発したマルチプレックスリアルタイムRT-PCRシステムは、牛疾病の診断に重要なPCR検査をより簡便且つ迅速に行うことができ、また同時に複数の病原体を一度に検出できる画期的な方法である。

  • キーワード:牛、呼吸器病、消化器病、診断、マルチプレックスリアルタイムRT-PCR
  • 担当:動物衛生研究部門・病態研究領域・寒地酪農衛生ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

牛において、呼吸器病および消化器病は最も多く発生する疾病であり、生産現場に対して甚大な被害をもたらしている。従来のPCR検査では、基本的に1種類のウイルスしか検査することができないため、複数の病原体について検査するためには多くの時間、労力および費用を必要とする。また検査には、通常複数の検体を用いることが多いため、検体数が増えることで作業の煩雑さが増し、結果的にコンタミなどのリスクが高まるなど非効率である。そこで、牛の呼吸器病および消化器病の診断に重要なPCR検査をより簡便且つ迅速に行うために、複数の病原体を同時に検出できるマルチプレックスリアルタイムRT-PCR法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 本システムは、我が国での牛疾病の発生状況に基づいて選抜された呼吸器病および消化器病に関わる計16の病原体を対象に、従来のリアルタイムRT-PCR検査で実績がある方法を組み合わせた4つのユニット(1ユニットあたり4病原体)から構成されている(表)。
  • 検査方法として、消化器病の診断に関してはユニット1と4を、呼吸器病の診断に関してはユニット1-3を、不明な場合は4つのユニットすべてを用い、同一条件下でPCR反応を行うことで16病原体に対する同時診断が可能である(表)。
  • 本システムは1種類の病原体を対象に行う従来のPCR検査と比較して、その検出感度や最小検出濃度に関して同等もしくはそれ以上の能力を有している。
  • 本システムは各種病原体検出に関して特異性や再現性があり、野外症例検体を用いた検査でもその有用性が確認できている。

成果の活用面・留意点

  • 従来の牛疾病の診断にかかる費用や労力、時間を大幅に削減すると共に、コンタミなどの人為的ミスを回避し、診断技術を全国レベルで飛躍的に向上させる。
  • 牛疾病の発生状況は年や都道府県によって異なるが、本システムの対象病原体を増減させることは可能である。

具体的データ

図 本研究の概要,表 マルチプレックスリアルタイムRT-PCRシステムの各ユニットの構成

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2019年度
  • 研究担当者:鈴木亨、五嶋祐介(岩手県)、福成和博(岩手県)、八重樫岳司(岩手県)
  • 発表論文等:Goto Y. et al. (2020) J. Appl. Microbiol. 129: 832-847