北米型豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス(PRRSV)による感染免疫は欧州型PRRSVの病態を軽減しない

要約

我が国に広く常在する北米型PRRSVに感染して免疫を獲得した豚でも、欧州型PRRSVに感染すると感染経歴のない豚と同程度の肺炎を起こす。一方、欧州型PRRSVの感染による免疫は、豚の体内で増殖した北米型PRRSVを早期に減少させる効果が認められる。

  • キーワード:診断、豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス、免疫、ワクチン、PRRS
  • 担当:動物衛生研究部門・ウイルス・疫学研究領域・疾病防除基盤ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス(PRRSV)は、母豚に流死産、子豚に肺炎などの呼吸器障害を引き起こす。PRRSVは北米型と欧州型の二種類に大別され、これまで全国的に北米型PRRSVのみが広範囲に浸潤していると考えられてきたが、近年になって欧州型PRRSVの分離も報告されてきている。この状況を鑑みると、北米型PRRSV感染による免疫が、欧州型PRRSVの感染に対して症状を軽減するか否かの確認は本疾病の防疫に重要となる。
そこで、子豚に北米型PRRSV(EDRD1株)を実験感染させ、病態が安定する3週間後に欧州型PRRSV(Jpn EU 4-37株)を重感染させた後、北米型PRRSV非感染対照群と比較することにより、ウイルス血症や肺炎症状等が軽減されるのか確認する。これとは対照的に、先に欧州型PRRSVが浸潤した農場において、後から北米型PRRSVが浸潤するケースを想定し、欧州型PRRSVの実験感染後に北米型PRRSVを感染させる実験を行い、感染の順番の違いにおける病態の差異や免疫の交差性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 北米型PRRSVの感染試験によって賦与された免疫は、欧州型PRRSVの攻撃試験に対して血中ウイルス量を減弱させない(図1A)。一方、欧州型PRRSVの感染試験によって賦与された免疫は、北米型PRRSVの血液中のウイルスを減少させる(図1B)。
  • 北米型PRRSVの感染試験によって賦与された免疫は、欧州型PRRSVの攻撃試験によって形成される間質性肺炎を軽減させない(図2A)。一方、欧州型PRRSVの感染試験によって賦与された免疫は、北米型PRRSVの攻撃試験によって形成される間質性肺炎を軽減する(図2B)。

成果の活用面・留意点

  • 北米型PRRSV浸潤農場であっても、欧州型PRRSVを新たに農場に侵入させない防疫体制が、生産性の向上に繋がるという知識の啓蒙に有用である。

具体的データ

図1 血清中のウイルス由来遺伝子量の推移。(A)北米型PRRSVの感染免疫の有無による欧州型PRRSVの増殖に対する影響、(B)欧州型PRRSVの感染免疫の有無による北米型PRRSVの増殖に対する影響。,図2 A、北米型PRRSVの接種後に欧州型PRRSVを接種してから21日後、及びB、欧州型PRRSVの接種後に北米型PRRSVを接種してから22日後の肺の病理組織像。

その他

  • 予算区分:その他外部資金(レギュラトリーサイエンス)
  • 研究期間:2010~2014年度
  • 研究担当者:井関博、髙木道浩、川嶌健司、芝原友幸、山川睦、真瀬昌司
  • 発表論文等:Iseki H. et al. (2020) J. Vet. Med. Sci. 82(7):935-942.