豚デルタコロナウイルスを発育鶏卵に接種することにより、当該ウイルスを培養・分離することを可能とする技術である。本技術は、罹患豚から得られた糞材料から直接当該ウイルスを分離することを可能とし、新興感染症である豚デルタコロナウイルス感染症の診断精度向上に大きく貢献する。
豚デルタコロナウイルス(PDCoV)は、2014年から始まった北米における豚流行性下痢ウイルス(PEDV)の大流行の最中、PEDVに因らない下痢症個体から新たに分離されたことから注目を集めた。その後、我が国を含めた多くの国でPDCoVによる豚の下痢症流行の報告が相次いでいることに加え、当該ウイルスがヒトを含めた様々な動物の細胞に感染性を有する研究が複数報告されたことから、人獣共通感染症の病原体になり得るのか注視されている。しかし、PEDVを始めとした下痢症を引き起こすウイルスは、一般的に培養細胞を利用したウイルスの分離・培養手法の開発が難しく、PDCoVの感染を疑う野外症例の診断を難しくしている。複数種の培養細胞を用いたPDCoVの分離・培養手法が報告されているが、既報の方法には手間や時間、専門的な技術を要する。
そこで、本研究ではPDCoVが分類されているデルタコロナウイルスのグループが、様々なコロナウイルスの中でも鳥類から多く分離されているウイルスであることに着目し、発育鶏卵を利用した豚デルタコロナウイルスの培養手法を開発することを目的とする。PDCoVを発育鶏卵で培養・分離可能な技術は、PDCoVを少ない労力で大量かつ短時間で培養できるようになり、家畜分野における新興感染症である豚デルタコロナウイルス感染症の診断に大きく貢献する普及性の高い新技術となる。