9型ウシパピローマウイルス様粒子の作製とマウスにおける免疫誘導効果

要約

牛乳頭腫症の原因の1つである9型ウシパピローマウイルスと似た構造を持つウイルス様粒子を生産する。このウイルス様粒子を免疫されたマウスでは血清中にIgG抗体が誘導される。

  • キーワード:ワクチン、ウイルス様粒子、免疫誘導、バキュロウイルス
  • 担当:動物衛生研究部門・ウイルス・疫学研究領域・疾病防除基盤ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

牛乳頭腫症はウシパピローマウイルス(BPV)の感染により感染部位に腫瘍が形成される疾病である。乳用牛の乳頭部に腫瘍が形成されると、乳頭部が大きく変形し搾乳困難や搾乳不可能となるなど酪農経営に重大な影響を及ぼすが、この牛乳頭腫症に対して確立された予防法や治療法はない。原因となるBPVは複数の遺伝子型に分類され、これらのうち病牛から最も多く検出されるのが6型(BPV6)であるが、乳頭部の牛乳頭腫症で重篤な症状を引き起こすのは9型(BPV9)であることが知られている。
ウイルスの外殻タンパク質のみでできているウイルス様粒子(VLP)は天然のウイルスに似た外観や抗原性を有しているが、内部にウイルスの遺伝情報を持たないため感染性や増殖性はなく、安全なワクチン抗原として注目されている。これまでに我々はBPV6のVLP(BPV6-VLP)を作製しその免疫誘導効果を明らかにしている。本研究ではさらにBPV9のVLP(BPV9-VLP)を作製し、マウスにおいてその疫誘導効果について検証する。

成果の内容・特徴

  • BPV9の外殻タンパク質遺伝子を有するバキュロウイルスを作製し、昆虫細胞株に接種すると細胞内でBPV9-VLPが生産される(図1)。
  • BPV9-VLPをマウスに接種するとBPV9に対する血清IgG抗体が誘導される(図2)。
  • BPV9-VLPを接種されたマウスで産生される抗BPV9抗体は異なる遺伝子型であるBPV6とは反応しない。同様にBPV6-VLPを接種されたマウスで生産される抗BPV6抗体は異なる遺伝子型であるBPV9とは反応しない(図3)。

成果の活用面・留意点

  • BPV9-VLPは抗BPV9抗体を誘導できるため、BPV9-VLPは9型が原因の乳頭腫症に対する有効なワクチン候補となる可能性がある。
  • BPV9-VLP接種による免疫誘導効果を牛で検証する必要がある。
  • BPV9-VLPおよびBPV6-VLPによって誘導される抗体はお互いのBPVと交差反応性がないため、BPV感染による牛乳頭腫を広く予防するためにはVLPを混合接種するなどそれぞれに対する免疫を誘導する必要がある。

具体的データ

図1. 昆虫細胞で生産させたBPV9-VLP,図2. BPV9-VLP接種マウスに誘導されるIgG抗体の推移,図3. BPV9とBPV6間の交差反応性

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(低コスト)、その他外部資金(28補正「経営体プロ」)
  • 研究期間:2015~2019年度
  • 研究担当者:渡邉聡子、芝原友幸、安藤清彦、畠間真一、真瀬昌司
  • 発表論文等:Watanabe S. et al. (2020) Arch. Virol. 165:1441-1444