Erysipelothrix属菌の血清型別が可能なマルチプレックスPCR法の開発

要約

開発したマルチプレックスPCR法は、Erysipelothrix属菌の1から26型からなる血清型を識別可能な手法である。従来の血清型別法である寒天ゲル内沈降反応は、判定までに2日以上を要していたが、本法により、迅速かつ簡便に血清型別が可能になる。

  • キーワード:Erysipelothrix属菌、血清型別、マルチプレックスPCR法
  • 担当:動物衛生研究部門・細菌・寄生虫研究領域・細胞内寄生菌ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

Erysipelothrix属菌には、人獣共通感染症の病原体であり、家畜伝染病予防法の届出伝染病に指定されている豚丹毒の原因菌である豚丹毒菌(E. rhusiopathiae)の他に、E. tonsillarumE. inopinataなどの菌種があり、また、2種類の未命名菌種が含まれる。Erysipelothrix属菌の血清型は、1から26型および型特異抗原性を欠くN型に分類されているおり、分離株の耐熱性抗原(オートクレーブ抽出抗原)と血清型参考株で免疫した家兎血清とを用いたゲル内沈降反応を用いて同定されている。しかし、血清型の同定には、各血清型参照株とそれにら対する抗血清を整備する必要があり、血清型別を実施できる機関は世界でも3、4の機関に限られている。また、判定までに要する日数は2日以上であり、迅速に血清型を判定することができないという問題もある。
これまでの研究により、豚丹毒罹患豚から分離される菌株の主な血清型である1型(1aおよび1b)および2型と、野生動物から頻繁に分離される5型を識別するマルチプレックスPCR法を開発している。そこで、本研究では、Erysipelothrix属菌のそれ以外の血清型を識別することが可能なマルチプレックスPCR法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 全ゲノムシークエンス解析により、各血清型を規定すると想定される遺伝子領域を同定し、各血清型に特有な遺伝子あるいは、遺伝子配列を利用して、プライマーを設計する。血清型13型に関しては、今回の解析では、血清型を規定する遺伝子領域を同定できていない。
  • 各血清型参考株と設計したプライマーを用いて、マルチプレックスPCR法の条件を検討し、4組のプライマーセットによるマルチプレックスPCR法を開発する(図1、2)。
  • 254株のErysipelothrix属菌野外分離株を用いて開発したマルチプレックスPCR法の特異性が検証される。

成果の活用面・留意点

  • 従来、血清型別が実施できなかった家畜保健衛生所や食肉検査所等でもErysipelothrix属菌の血清型が、迅速かつ簡便に判定できるようになり、疫学解析に有用な情報となる。
  • 1から26型まである血清型のうち13型については、血清型を規定する遺伝子領域を同定できていないため識別ができない。また、交差反応が報告されている血清型7型および14型、一部交差反応が確認される10型および11型は、血清型を規定する遺伝子領域がそれぞれ高い相同性を示すため、型特異的なプライマーを設計できず、本法では識別できないことに留意する。

具体的データ

図1 ゲル内沈降反応による血清型別およびマルチプレックスPCR法の手順,図2 Erysipelothrix属菌の血清型を識別するマルチプレックスPCR法

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2019~2020年度
  • 研究担当者:
    小川洋介、白岩和真、富永春花(帝京科学大)、西川明芳、江口正浩、彦野弘一(帝京科学大)、下地善弘
  • 発表論文等:Shimoji Y. et al. (2020) J. Clin. Microiol. 58:e00315-20