経口ワクチンは現在流行している豚熱ウイルスに有効である

要約

豚熱ウイルスを接種する14日前に経口ワクチンを投与されたイノブタは、発熱や白血球減少症を示さず、ウイルス血症やウイルス排泄も起こさない。すなわち、経口ワクチンは、発症を防ぎ、動物体内でのウイルス増殖を抑える。

  • キーワード:豚熱、感染試験、経口ワクチン
  • 担当:動物衛生研究部門・越境性感染症研究領域・口蹄疫ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

2018年9月にわが国で26年ぶりに発生した豚熱は、野生イノシシでの発生が継続しており、終息の目途は立っていない。野生イノシシに対しては飼養豚のように注射によるワクチン接種が不可能なため、諸外国においては、トウモロコシ等を原料とした餌に生ワクチン液を封入した経口ワクチン(図1)が使用され、効果を上げている。わが国においても、諸外国の例を参考に、野生イノシシの豚熱対策として2019年3月から経口ワクチンの使用が開始された。しかし、本ワクチンの有効性については、海外の豚熱ウイルスに対しては検証されているが、現在わが国で流行しているウイルスに対しては検証されていない。
そこで本課題では、現在わが国で流行している豚熱ウイルスを用いた感染試験により本ワクチンの有効性を検証する。

成果の内容・特徴

  • 経口ワクチンを投与されていないイノブタでは、豚熱ウイルスの接種により40°C を超える発熱や10,000個/μLを下回る白血球減少症に加えて、食欲不振、結膜炎、元気消失、目やに、鼻汁漏出、ふらつき、振戦、紫斑、徘徊、発咳、下痢および血便が確認されるが、ウイルス接種14日前に、野外で使用されている量のワクチンを投与されたイノブタでは確認されない(図2および3)。また、経口ワクチンの投与は、イノブタに健康的被害を及ぼさない。
  • ワクチン非投与イノブタでは、ウイルス接種2日後からウイルス血症や唾液、鼻汁および糞便中へのウイルス排泄が確認されるが、ワクチン投与イノブタでは確認されない(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 本課題の成績から、現在野生イノシシの豚熱対策として実施されている経口ワクチン散布は有効であると科学的に裏付けられる。
  • 野外においてはイノシシがワクチンを摂取してからウイルスに感染するまでの期間が様々であり、期間によっては本ワクチンが有効性を示さない可能性がある。

具体的データ

図1 経口ワクチン,図2 ワクチン非投与および投与イノブタの体温の推移,図3 ワクチン非投与および投与イノブタの白血球数の推移,図4 ワクチン非投与および投与イノブタからのウイルス排泄

その他

  • 予算区分:その他外部資金(レギュラトリーサイエンス)
  • 研究期間:2019年度
  • 研究担当者:深井克彦、西達也、山田学、生澤充隆
  • 発表論文等:Fukai K. et al. (2020) Vet. Res. 51:96