ホルマリン固定パラフィン包埋標本上の鶏のTおよびBリンパ球の免疫組織化学的同定

要約

適切な市販抗体を用いてホルマリン固定パラフィン包埋標本上の鶏のTおよびBリンパ球を、免疫組織化学により特異的かつ高感度に同定する手法である。本手法は鶏にリンパ腫を引き起こすマレック病や鶏白血病の鑑別、また、鶏の免疫学的研究に応用できる。

  • キーワード:鶏、リンパ球、免疫組織化学、ホルマリン固定パラフィン包埋
  • 担当:動物衛生研究部門・病態研究領域・病理ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

免疫組織化学(IHC)によるリンパ球の同定は、T細胞性リンパ腫を引き起こすマレック病やB細胞性リンパ腫を引き起こす鶏白血病など家禽のウイルス誘発性腫瘍の診断の重要な手掛かりとなる。しかし、哺乳類と比べて鶏の免疫学的研究は遅れており、また、鶏のリンパ球抗原に対する市販抗体も少ない。さらに、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)による抗原性の変化等によりFFPE標本上の鶏リンパ球を同定するIHCは困難であり、これまでIHCによる鶏リンパ球の同定法は標準化されていない。本研究は鶏のリンパ球性腫瘍の診断や感染症研究に利用できる、IHCによる簡便な鶏リンパ球の同定法の開発を目的とし、FFPE標本上の鶏リンパ球に反応する市販抗体の中から、最も特異的かつ高感度に鶏リンパ球を同定可能な抗体を決定する。

成果の内容・特徴

  • FFPE標本上の鶏リンパ球は市販抗体を用いたIHC(ポリマー法)で検出可能である。
  • 抗体によって鶏リンパ球に対する反応性は大きく異なるため、適切な抗体を選ぶ必要があるが、一部の抗ヒトあるいは抗ニワトリ抗体が利用できる。
  • 鶏のTリンパ球と反応する5種類の抗体のうち、抗ヒトCD3抗体 (clone F7.2.38)は胸腺の皮質および髄質、脾臓の動脈周囲リンパ鞘などのT細胞領域のTリンパ球を最も高感度かつ特異的に同定できるため、鶏のTリンパ球の免疫組織化学的同定に適している(表1、図1)。
  • 鶏のBリンパ球と反応する3種類の抗体のうち、抗ニワトリBAFF-R抗体 (clone 2C4)はファブリキウス嚢の皮質および髄質、脾臓の莢組織周囲白脾髄、盲腸扁桃の濾胞などのB細胞領域のBリンパ球を最も高感度かつ特異的に同定できるため、鶏のBリンパ球の免疫組織化学的同定に適している(表1、図1)。

成果の活用面・留意点

  • 鶏にT細胞性リンパ腫を誘発するマレック病やB細胞性リンパ腫を誘発する鶏白血病などの鑑別に利用できる。
  • 鶏の免疫応答に関する病理組織学的解析が可能となり、感染症・免疫学的研究が進展する。

具体的データ

表1 FFPE標本上の鶏リンパ球と反応する抗体を用いたIHC陽性細胞の割合。鶏3羽のリンパ系臓器の各組織学的区画におけるIHC陽性細胞数の平均割合(%)を算出している。,図1 鶏のFFPEリンパ系臓器の免疫染色像。抗ヒトCD3抗体 (clone F7.2.38)はTリンパ球を検出可能である。抗ニワトリBAFF-R抗体 (clone 2C4)はBリンパ球を検出可能である。

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2018~2019年度
  • 研究担当者:黒川葵、山本佑
  • 発表論文等:Kurokawa A. et al. (2020) Vet. Immunol. Immunopathol. 228:110088