牛の松果体腫瘍の病理学的特徴

要約

牛の松果体芽細胞腫は、中脳の背側に腫瘤を形成し、脳表面を覆うように膜状に増殖する特徴を持ち、組織学的には間質に膠原線維が認められる。また免疫組織化学的染色において腫瘍細胞は神経内分泌腫瘍マーカーであるシナプトフィジン陽性を示す。

  • キーワード:牛、松果体芽細胞腫、腫瘍、免疫組織化学的染色
  • 担当:動物衛生研究部門・病態研究領域・病理ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

松果体芽細胞腫は松果体細胞由来の悪性腫瘍である。家畜の松果体由来の腫瘍は非常に稀であり、松果体芽細胞腫に関しては診断に有効な免疫組織化学的染色マーカーも明らかにされていない。
そこで本研究では、牛の松果体芽細胞腫の病理学的特徴と免疫組織化学的染色結果について報告し、今後の同症例の診断の一助とすることを目的とする。

成果の内容・特徴

  • 本症例は5歳齢の雌のホルスタイン種牛で、臨床症状は後弓反張、音への過敏反応といった神経症状である。
  • 本腫瘍の解剖時の肉眼的特徴として、左右大脳半球と小脳の間の中脳背側に4×3×2cmの黄白色ゼラチン様の柔らかい腫瘤を形成(図1A、矢印)し、腫瘤は左右大脳半球の後頭葉内側面から腹側面、梨状葉外側面及び小脳半球にかけて脳表面を覆うように膜状に増殖する(図1B)。
  • 本腫瘍は病理組織学的に、細胞質の乏しい円形核の腫瘍細胞が線維性間質に区画されて分葉構造を形成しながら増殖する特徴を有する(図2A)。また脳表面に膜状に増殖するものの、脳実質内には浸潤しない特徴を有する。
  • 本腫瘍の線維性間質はアザン染色によって青染する膠原線維で構成されており、膠原線維による間質を持たない中枢神経組織由来の脳腫瘍と鑑別できる(図2B)。
  • 免疫組織化学的染色(IHC)で間質付近の腫瘍細胞は抗シナプトフィジン抗体に陽性を示す(図2C)。また抗グリア線維酸性タンパク質 (GFAP)抗体陽性の星状膠細胞の突起が血管周囲や管腔を内張するように認められる特徴を有する(図2D)。
  • 本症例は、牛における松果体芽細胞腫のはじめての報告である。

成果の活用面・留意点

  • 牛の松果体芽細胞腫に関する情報、特に免疫組織化学的染色についての情報は、他の脳腫瘍との類症鑑別に活用できる。
  • 肉芽腫性髄膜炎や膿瘍などの頭蓋内に腫瘤を形成するその他の疾病との類症鑑別にも活用できる。
  • 大脳から小脳にかけて脳表面を覆うように膜状に増殖した腫瘤が認められた場合には、松果体芽細胞腫を疑い中脳背側の腫瘤の有無を確認する。

具体的データ

図1 A: 左右大脳半球と小脳の間、中脳背側の黄白色の腫瘤(矢印)。B: 大脳梨状葉外側面及び小脳半球にかけて脳表面を覆うように膜状に増殖した腫瘤。ホルマリン固定後。,図2 A: 線維性間質によって区画された腫瘍細胞。HE染色。B: 線維性間質はアザン染色で青染する膠原線維で構成。アザン染色。C. 間質付近の腫瘍細胞は免疫組織化学的染色で抗シナプトフィジン抗体に陽性を示す(茶色に染色)。IHC。D. 抗GFAP抗体では腫瘍細胞は陰性。血管を覆うように、また管腔を内張するように抗GFAP抗体陽性の星状膠細胞の突起がみられる特徴を有する。IHC。

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2018~2020年度
  • 研究担当者:山田学、生澤充隆、水上智秋(岡山県岡山家保)
  • 発表論文等:Mizukami C. et al. (2021) J. Comp. Pathol. 182: 32-36