伝染病発生時のサーベイランスにおいて感染農場を効率的に摘発するサンプリング手法

要約

豚舎の四隅と中央からの採材は、省力的でありながら豚舎内の感染動物を効率よく摘発することができ、無作為抽出に匹敵する摘発確率が得られる。このため、この手法は農場での無作為抽出の代替となるサンプリング手法となる。

  • キーワード:CSF、サーベイランス、サンプリング、無作為抽出、シミュレーション
  • 担当:動物衛生研究部門・ウイルス・疫学研究領域・疫学ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

豚熱(CSF)のような伝染病が発生した場合、発生農場の周辺農場を対象に、感染の有無を調べるための検査(サーベイランス)が行われる。この検査においては、感染豚が明確な症状を示す場合には摘発が容易であるが、2018年以降日本で発生しているCSFのように、症状によって摘発できなことも想定される場合には、国の要領に従い、豚舎ごとに最低 5 頭(CSFの場合)を選んで検査することとされている。少ない頭数で農場内の感染豚を摘発するためには、ランダムに対象豚を選ぶこと(無作為抽出)が良いとされているが、この方法では検査豚を選択する手続きが煩雑であるため、緊急時には検査豚の選択に戸惑うことも多い。このため、本研究では、コンピューターシミュレーションを用いて、仮想の豚舎内で伝染病の感染を起こした上で、様々な選択方法を評価し、限られた頭数の検査で効率的に感染農場を摘発することができる簡易な豚の選択方法(サンプリング手法)を明らかにする。シミュレーションによる手法の検討は、母豚舎のような1頭ごとに飼養している豚舎(単飼)と、肥育豚舎のような複数頭を同じ豚房で飼養している豚舎(群飼)のそれぞれについて行う。

成果の内容・特徴

  • 単飼と群飼のいずれについても、豚舎内の端の個体(群飼の豚舎では端の豚房)から採材(図1左)する場合には、無作為抽出に比べ著しく摘発確率が低い(図2)。すなわち、豚舎内での偏ったサンプリングは、摘発確率を著しく低下させる。
  • 群飼の豚舎では、1房から5頭採材するより5房から1頭ずつ採材する方が摘発確率は高い(図3)。
  • 豚舎の四隅と中央の5カ所から各1頭(群飼の豚舎では四隅と中央の5房から各1頭)を採材(図1右)する場合には、無作為抽出と同等の摘発確率となる(図2)。この手法を用いることにより、緊急時に無作為化の手間をかけることなく、無作為抽出と同等の感染動物の摘発効果が得られる。

成果の活用面・留意点

  • 伝染病発生時の緊急的なサーベイランスでは、多くの検査対象農場から、限られた検査頭数で効果的に感染農場を摘発する必要がある。豚舎の四隅と中央からの採材は、省力的であり、かつ、豚舎内から万遍なく採材することにより、無作為抽出の代替となり得る。
  • 一貫して他のサンプリング手法より摘発確率が高かった無作為抽出であっても、有病率(感染している個体の割合)が低い場合の摘発は難しいことに留意する必要がある。また、異常を示している個体は優先的に検査をすることが重要である。
  • 本研究では、養豚場におけるCSFの発生を想定してシミュレーションを行っているが、この際、動物や疾病の種類、畜舎や豚房の大きさに依存した条件は含まれていないため、畜種や疾病が変わった場合も、四隅と中央からの採材は無作為抽出と同等の有効性が期待できる。

具体的データ

図1 サンプリング手法の模式図(左:豚舎の端から縦または横方向に5頭採材、右:豚舎の四隅と中央から5頭採材),図2 サンプリング手法ごとの有病率と摘発確率の関係(単飼の豚舎の場合),図3 豚房あたりの検査頭数を変えた場合の有病率と摘発確率の関係(群飼の豚房、無作為抽出の場合)

その他

  • 予算区分:その他外部資金(安全な農畜水産物安定供給のための包括的レギュラトリーサイエンス研究推進委託事業)
  • 研究期間:2019~2020年度
  • 研究担当者:村藤義訓、早山陽子、清水友美子、澤井宏太郎、山本健久
  • 発表論文等:Murato Y. et al. (2020) PLoS One 15(10):e0241177