与那国島で分離された新規オルビウイルス"Yonaguni orbivirus"
要約
沖縄県八重山諸島与那国島で牛の血液から分離された "Yonaguni orbivirus"は、蚊が媒介するオルビウイルスと近縁な新規のアルボウイルスである。八重山諸島での継続的なサーベイランスは、国内への未知のアルボウイルスの侵入を、いち早く検出することが可能である。
- キーワード:アルボウイルス、牛、オルビウイルス、次世代シーケンサー
- 担当:動物衛生研究部門・越境性感染症研究領域・暖地疾病防除ユニット
- 代表連絡先:
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
節足動物媒介ウイルス(アルボウイルス)は、蚊やヌカカ、マダニ等の吸血性節足動物により媒介されるウイルスの総称で、牛のアルボウイルスは、熱帯・亜熱帯地域に常在しているものが、夏季に媒介節足動物を介して国内に侵入すると考えられている。日本の南西端に位置し、アルボウイルスの常在地である熱帯地域に隣接する沖縄県の八重山諸島において、アルボウイルスの国内侵入状況を調査するために牛の血液材料を収集し、ウイルス分離を行う。
成果の内容・特徴
- 2015年に沖縄県与那国島で採取した牛9頭の血球をヒトスジシマカ由来の培養細胞C6/36細胞に接種して得られた1株のウイルスは、既知の牛のアルボウイルスに対するプライマーを用いたRT-PCRにより同定ができない。
- 次世代シーケンサーによる分離ウイルスの全ゲノム解析により、北米でシカから分離されたMobuck virusと近縁な新種のウイルス(Yonaguni orbivirusと命名)であることが判明する。
- オルビウイルスの分類に用いられるコアタンパク質をコードする分節ゲノム2の配列を用いた分子系統樹解析は、Yonaguni orbivirusがMobuck virusを含む蚊が媒介するオルビウイルスと同じグループに含まれていることを示している(図)。
成果の活用面・留意点
- 八重山諸島におけるアルボウイルスのサーベイラインスは、RT-PCRで既知のウイルスを同定し、さらに次世代シーケンサーを用いたウイルスゲノムの網羅的解析により、未知のアルボウイルスの侵入を迅速に検出することが可能である。
- Yonaguni orbivirusは、蚊が媒介するオルビウイルスのグループに入ることから、媒介節足動物は蚊と考えられるが、蚊の種類やウイルスの病原性は不明であり、今後も引き続き感染状況や吸血性節足動物の調査が必要である。
- 決定したゲノム配列をもとにYonaguni orbivirusに対するプライマーを設計し、RT-PCRによる検出が可能となり、今後の継続的な調査が容易になる。
具体的データ

その他
- 予算区分:戦略プロ(国内侵入)
- 研究期間:2014~2020年度
- 研究担当者:
室田勝功、須田遊人、白藤浩明、石井圭子(沖縄県家衛試)、片桐慶人(沖縄県家衛試)、鈴木萌美(沖縄県家衛試)、小林大介(感染研)、伊澤晴彦(感染研)、田中省吾、梁瀬徹
- 発表論文等:Murota K. et al. (2020) Arch Virol. 165(12):2903-2908