豚の組織・体液中のかび毒フモニシンB1の高精度分析方法

要約

液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS/MS)を用いた豚の組織・体液中のフモニシンB1(FB1)を高精度で検出できる手法である。本法では前処理により生体由来のマトリックス効果を除去でき、豚のFB1の体内動態や可食部へ残留の解析に有効である。

  • キーワード:かび毒、フモニシンB1、豚、LC-MS/MS、前処理
  • 担当:動物衛生研究部門・病態研究領域・中毒・毒性ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

FB1は、フザリウム属の真菌が産生するかび毒、フモニシンの一つで、フモニシンB2(FB2)、フモニシンB3(FB3)とともに、国産飼料にも高頻度で検出されている。FB1に感受性が最も高い豚では、肺水腫や肝臓壊死が引き起こされる。フモニシン汚染は国内でも養豚上の重要な問題として認識され、2019年に農林水産省から家畜配合飼料中のFB1+FB2+FB3の総和を4 mg/kg以下とする管理基準が設定されている。FB1は、摂取量に比べ動物体内濃度が極めて低いことが明らかになっている。一方、FB1の体内動態は未解明な部分があり、多様な生体試料について、低濃度のFB1を迅速で高精度に定量できる前処理・分析法が求められている。本研究では、FB1を投与した豚の臓器や体液を試料として、ギ酸/アセトニトリル/水による抽出、リン脂質除去カラムによる精製、LC-MS/MSによる高精度分析方法を確立する。

成果の内容・特徴

  • 図1および表1に示すLC-MS/MSによるFB1分析には、皮下に移植したポンプにより20 mgのFB1を1週間持続的に投与した5週齢のLW系豚(雄)から得られた血液、腎臓、肝臓、尿および胆汁を用いている。
  • 血液、腎臓、肝臓、尿試料では、サンプルの組成の違いによる分析における影響(マトリックス効果)は20%未満、添加回収試験の回収率は80-120%、ばらつきは10%未満であり、高精度で分析可能である。
  • 胆汁試料では、マトリックス効果試験において約90%のイオン化抑制(夾雑成分が優先的にイオン化されて、目的の分子種がイオン化されにくいこと)が確認される。添加回収試験による回収率は約10%であるが、イオン化抑制率は安定していることから、分析値を10倍することで、胆汁中のFB1濃度を一定程度の精度で定量可能である。
  • 分析した組織のうち尿中のFB1濃度が最も高く、次いで胆汁、肝臓、腎臓、血液の順である(図2)。尿中や胆汁中で濃度が高いことは、FB1の排泄速度が速いことを意味している。

成果の活用面・留意点

  • 本分析法を用いることで、豚の血液、肝臓、腎臓と尿中の低濃度のFB1を高精度で効率よく分析できる。また、本法は生体由来のマトリックス効果を除去できることから、他の家畜試料中FB1の分析にも活用できる。
  • 胆汁中のFB1の分析については、さらに前処理方法の検討が必要である。

具体的データ

図1 抽出・前処理条件,表1 LC-MS/MS分析条件,図2 豚の組織・体液中のFB1の平均濃度(ng/g) (胆汁中の濃度に関しては、マトリックス効果分(10倍)を補正した値)

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2017~2019年度
  • 研究担当者:グルゲ キールティ シリ、吉岡都、山中典子
  • 発表論文等:Watanabe M. et al. (2021) Environmental Monitoring and Contaminants Research. 1:47-53 doi: 10.5985/emcr.20200005