ヨーロッパ腐蛆病菌のローヤルゼリー耐性能発揮に関与する転写調節因子SpxA1a
要約
ミツバチの監視伝染病の原因菌であるヨーロッパ腐蛆病菌は抗菌活性が強い餌の中で生き残って幼虫に経口感染することができるが、この能力の発揮には転写調節因子SpxA1aが関与している。本発見は、幼虫の餌の中でも生き残る強いミツバチ用プロバイオティクスの開発に繋がる知見である。
- キーワード:ミツバチ、ローヤルゼリー、抗菌活性、ヨーロッパ腐蛆病菌、転写調節因子
- 担当:動物衛生研究部門・細菌・寄生虫研究領域・病原機能解析ユニット
- 代表連絡先:
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
ミツバチは多くの果物や作物の受粉に利用される重要な生物資源である。ミツバチの幼虫はローヤルゼリーなどの抗菌活性が強い餌を与えられて育つが、ミツバチの監視伝染病の原因菌であるヨーロッパ腐蛆病菌はこの餌の中で生き残り、幼虫に経口感染することができる。即ち、ローヤルゼリー耐性能はヨーロッパ腐蛆病菌が感染を成立させ、病原性を発揮するために最も重要な性質の一つである。また、ローヤルゼリーの中で生き残る能力は、雑菌が含まれる腐蛆から選択的にヨーロッパ腐蛆病菌を分離する際など、腐蛆病の診断にも利用できる性質でもあるが、その耐性機構については明らかになっていない。
そこで本研究では、ヨーロッパ腐蛆病菌のローヤルゼリー耐性機構の解明に向けた最初のステップとして、ゲノム情報を利用してローヤルゼリー耐性能発揮に関与する遺伝子の同定を行う。
成果の内容・特徴
- ローヤルゼリーに耐性を示すヨーロッパ腐蛆病菌に紫外線照射を繰り返すことで、ローヤルゼリーに感受性になったヨーロッパ腐蛆病菌株が生じる(図1)。
- ローヤルゼリー感受性株では、転写調節因子の遺伝子(spxA1a)がフレームシフト変異によって機能を失っている。
- ローヤルゼリー耐性株からspxA1aを欠失させると、ヨーロッパ腐蛆病菌株はローヤルゼリーの中だけでなく、ローヤルゼリーに特異的な抗菌脂肪酸(10-HDA)の存在下、酸性環境下および酸化ストレス下での生残性が著しく低下し、再びspxA1aを導入すると、これらストレス環境下での生存能力が元に戻る(図2)。すなわち、SpxA1aはヨーロッパ腐蛆病菌がローヤルゼリー耐性能を発揮する上で鍵となる転写調節因子である。
成果の活用面・留意点
- 今回明らかになった知見がヨーロッパ腐蛆病菌全体に共通するものであるのかを確かめるため、遺伝的背景が異なる株におけるSpxA1aの機能も検証する必要がある。
- より詳細なローヤルゼリー耐性機構を明らかにするためには、SpxA1aによって転写が調節されている遺伝子の機能解析も必要である。
- 詳細なローヤルゼリー耐性機構が明らかになれば、ヨーロッパ腐蛆病の発病機構の解明につながるだけでなく、その知見を幼虫の餌の中でも生き残る強いミツバチ用プロバイオティクスの開発に応用できる可能性がある。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
- 研究期間:2013~2020年度
- 研究担当者:髙松大輔、奥村香世(帯広畜産大)、田端厚之(徳島大)、岡本真理子、大倉正稔
- 発表論文等:Takamatsu D. et al. (2020) Environ. Microbiol. 22:2736-2755