細胞特異的DNAメチル化パターンの解明

要約

シロイヌナズナ根端分裂組織の細胞特異的メチローム解析を行い、コルメラ細胞ではRNA指向型DNAメチル化が活性化していることを明らかにした。

  • キーワード:DNAメチル化、遺伝子発現、小分子RNA、根端分裂組織、細胞特異的解析
  • 担当:生物機能利用研究部門・新産業開拓研究領域・有用物質生産作物開発ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-7007
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

生物の体は様々な機能を持つ多数の種類の細胞から構成されている。全ての細胞は同じゲノム情報を持っているにも関わらず、細胞ごとに性質が異なる原因はDNAメチル化などエピゲノム状態の違いであると考えられている。しかし植物の体細胞間においてエピゲノム状態に違いがあるかどうかは調べられてこなかった。本研究ではシロイヌナズナ根端分裂組織の6種類の主要な細胞群の全ゲノムDNAメチル化情報と遺伝子発現情報を網羅的に取得し、DNAメチル化パターンと遺伝子発現パターンの多様性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • DNAメチル化と細胞特異的遺伝子発現パターンの相関は低い。
  • コルメラ細胞ではゲノム全体にわたって高CHHメチル化が起きている(図1)。
  • コルメラ細胞では小分子RNAの生産に関わる遺伝子発現が上昇し、24塩基の小分子RNAが高蓄積していることから、RNA指示的DNAメチル化(RdDM)の活性化が高メチル化の原因である(図2、3)。
  • コルメラ細胞ではヘテロクロマチンの構築・維持に必要なヒストンバリアント遺伝子の発現が低下しており、ヘテロクロマチンが緩んでいる(図2)。したがってヘテロクロマチンが緩み、ゲノム全体でRdDMが誘導された結果、ゲノム全体のCHHメチル化が起きていると結論される。
  • 今回解読したDNAメチル化情報と遺伝子発現情報を公的データベースであるGEOに登録し、オンラインで2016年4月29日に公開している。

成果の活用面・留意点

  • 今回の研究から、細胞特異的なDNAメチル化と遺伝子発現の関連が弱いことが明らかになった。今後は細胞特異的なDNAメチル化の機能や意義の解明が求められる。
  • コルメラ細胞における高メチル化の生物学的意義として、コルメラ細胞で生産された大量の小分子RNAを幹細胞に輸送し、幹細胞でのトランスポゾン転移を抑制することが考えられるが、検証が必要である。
  • 細胞特異的解析によって新しいバイオロジーが切り拓かれることが明らかになった。今後他の組織についても同様に細胞特異的解析が行われ、未知の生物機能が発見されることが期待できる。

具体的データ

図1 根端の細胞特異的なDNAメチル化パターン?図2 DNAメチル化に関わる因子の遺伝子発現パターン?図3 小分子RNA長の分布

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(JSPS海外特別研究員)
  • 研究期間:2012?2016年度
  • 研究担当者:川勝泰二、Stuart T(西オーストリア大)、Valdes M(デューク大)、Breakfield N(デューク大)、Schmitz RJ(ソーク研)、Nery JR(ソーク研)、Urich MA(ソーク研究所)、Han X(デューク大)、Lister R(西オーストリア大)、Benfey PN(デューク大)、Ecker JR(ソーク研)
  • 発表論文等:Kawakatsu T. et al. (2016) Nature Plants 2:16058