植物の防御機構を応用した貯蔵病害菌の増殖を抑制するフィルムの開発

要約

植物は病原菌の感染を抑制するために抗菌物質を生産する。高い抗菌活性を指標に選抜された植物由来の化合物を徐放するフィルムで果物を覆うと、カビ増殖を抑制できる。本成果は果物等の貯蔵病害防除のための基盤技術となる。

  • キーワード:防カビ、果物、貯蔵病害、フィルム、植物抗菌成分
  • 担当:生物機能利用部門・植物・微生物機能利用研究領域・植物微生物機能ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-8461
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

植物は病原菌の感染を妨害するために多様な抗菌性化合物を合成しているが、これらの抗菌性化合物の作用機構は殆ど解析されていない。これまでに植物の生産する抗菌化合物の作用機構の解析を行うなかで、強い防カビ性を示す揮発性化合物を見出している。湿度が高い日本では様々な方面で防カビ技術へのニーズが高い。本化合物が人体に安全であることを踏まえ、その利用の試みのひとつとしてカビ汚染を防ぐフィルムを作製する。

成果の内容・特徴

  • 5種類の主要な病原性糸状菌(カビ)に対して抗菌性を発揮する植物由来の化合物のスクリーニングを行った。その結果、それらカビの生育を強く阻害する化合物を複数見いだした。これら化合物は人体に無害である。
  • 本研究で防カビフィルムの試作に用いた植物由来の化合物は、特に果物の貯蔵被害が大きい灰色カビ病菌(Botrytis cinerea)あるいは青カビ(Penicillium itallicum)に対して揮発により強い防除効果を示す。
  • シャーレの蓋に本化合物を置くことにより、培地上のカビの増殖が揮発した化合物の作用により阻害される(図1)。
  • 蒸着重合膜で本化合物を挟み込んだフィルムで容器の上部を覆うことにより、容器内部においたブドウあるいはイチゴ果実に接種した灰色カビ病菌の増殖が抑制される(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 本研究で用いた化合物は人体に安全であることが知られている。本研究成果は間接的なカビ防除を可能にする基盤技術であるため、食品分野への色々な応用が期待できる。
  • カビによる果物等の貯蔵・流通時の汚染は大きな問題となっている。本研究成果は果物などの貯蔵病害の防除への利用が期待できる。

具体的データ

図1. 植物の生産する揮発性抗菌化合物による糸状菌の生育阻害?図2. 防カビフィルムの効果.

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(27補正「先導プロ」)
  • 研究期間:2014?2016年度
  • 研究担当者:西村麻里江、鈴木正男(小島プレス工業)、大崎明宏(小島プレス工業)、辻朗(小島プレス工業)、田中貴章(小島プレス工業)、手島登(小島プレス工業)、清水弘樹(産総研)、三宅晃司(産総研)、中野美紀(産総研)
  • 発表論文等:除放性フィルム、伊藤薫ら、特願2016-125578(2016年6月24日)