コムギの低温誘導性ディフェンシンは雪腐病および赤かび病抵抗性を向上させる
要約
コムギの低温馴化過程で誘導されるディフェンシンTAD1は、雪腐病菌に対して抗菌活性を持つ。TAD1をコムギで高発現させることにより、雪腐病抵抗性のみならず赤かび病抵抗性も向上させることができる。
- キーワード:コムギ、低温馴化、抗菌タンパク質、雪腐病、赤かび病
- 担当:生物機能利用研究部門・遺伝子利用基盤研究領域・組換え作物技術開発ユニット
- 代表連絡先:電話 029-838-8361
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
北海道のような多雪地帯では積雪期間が長くなるため、積雪下で増殖する雪腐病菌の感染がコムギの減収要因となる。コムギや牧草などの越冬性植物は秋の低温を感知して、耐凍性および雪腐病抵抗性を高める遺伝子の発現を上昇させる「低温馴化」と呼ばれる適応機構をもっている。本研究では、コムギの低温馴化過程で顕著に発現が増加する抗菌タンパク質TAD1(Triticum aestivum defensin 1)に着目し、雪腐病抵抗性との関係を明らかにする。さらに、コムギの重要病害である赤かび病に対する抵抗性についても検討を行う。
成果の内容・特徴
- TAD1はコムギの低温馴化過程で誘導されるディフェンシンであり、組換えTAD1タンパク質は雪腐病菌(Typhula ishikariensis)の生育を阻害する(図1)。
- TAD1をコムギで高発現させると(図2)、高発現系統では原品種「Bobwhite」と比較して、雪腐病菌接種による葉の病斑伸展が抑制され(図3A)、病斑面積は縮小する(図3B)。
- 赤かび病菌(Fusarium graminearum)接種による葉の病斑伸展は強く抑制され(図4A)、病斑面積は著しく縮小する(図4B)。
成果の活用面・留意点
- TAD1の高発現を利用した作物の雪腐病及び赤かび病抵抗性向上技術として活用できる。
- 作物の雪腐病抵抗性獲得のメカニズム解明に向けた基礎的知見となる。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2011?2015年度
- 研究担当者:佐々木健太郎、宇梶慎子、梅木菜月(北大農)、藤岡真里、佐分利亘(北大院農)、松井博和(北大院農)、安倍史高、今井亮三
- 発表論文等:Sasaki K. et al. (2016) J. Biotechnol. 228:3-7