昆虫に汎用性のある細胞死誘導システムの開発

要約

カイコで開発したマウス細胞死誘導因子Bax(mBax)の過剰発現により任意の組織に細胞死を誘導できるシステムの有効性をマラリア媒介蚊(ハマダラカ)で証明した。標的にした唾液腺では特異的に細胞死が誘発される。

  • キーワード:昆虫改変、遺伝子組換え、アポトーシス、細胞死、マラリア媒介ハマダラカ
  • 担当:生物機能利用研究部門 新産業開拓研究領域カイコ機能改変技術開発ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-6091
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

遺伝子組換えカイコでは産業化に際し、系統の流出防止や飼育管理のための不妊化技術が必要とされ、マウスの細胞死誘導因子mBaxを利用して生殖に必要な組織に細胞死を誘導できるシステムが開発され、有効性がカイコの絹糸腺で確認されている。この細胞死誘導システムの昆虫での汎用性を証明するため、ハマダラカの雌唾液腺特異的プロモーター(AAPP)を用い、マラリア媒介ハマダラカをモデルとしてmBaxによる細胞死誘導システムの汎用性を検証する。ハマダラカは遺伝子組換え技術が確立されており、その唾液腺はカイコの絹糸腺と相同な器官である。

成果の内容・特徴

  • トランスポゾン(piggyBac)を利用した形質転換法により、AAPPプロモーターの制御でmBaxを発現する形質転換(TG)ハマダラでは、唾液腺特異的にmBax遺伝子の発現が確認できる(図1)。
  • mBaxが発現するハマダラカ雌の唾液腺では、死細胞を特異的に染色する組織染色から細胞死が確認でき(図2A')、形態観察からも唾液腺先端部の明らかな萎縮が認められ(図2B'矢印部分、C'先端部拡大図)、唾液線内のタンパク質量も著しく減少しており、細胞死誘導システムがハマダラカでも機能する。
  • TGハマダラカの雌は、唾液が極端に少ないものの吸血できて妊性もあるが、マラリア原虫が感染した血液を吸血しても中腸におけるマラリアの寄生はほとんど確認できず、マラリアを媒介できない。この結果は、ハマダラカの唾液成分の中にマラリア原虫の生殖に必要な因子が含まれていることを示す。
  • TGハマダラカの唾液腺抽出物のバイオアッセイの結果はハマダラカの唾液にマラリア原虫の雄生殖母体のべん毛放出に関与する因子が存在する可能性を示す(図3)。

成果の活用面・留意点

  • mBax遺伝子はその分子の作用機序から考えても、種特異性を考慮する必要がなく、あらゆる昆虫種で細胞死誘導因子として用いることが可能であるが、対象昆虫種での組織特異的な遺伝子発現を制御できるプロモーターの開発が必要である。
  • 細胞死誘導システムは、特定の組織・細胞が持つ機能の解明及びそれを活用した昆虫機能の制御に有効である。
  • mBaxを用いた細胞死誘導システムにより、マラリア媒介蚊のような有害昆虫の制御や防除、あるいはミツバチなどの有用昆虫の機能改変への応用も可能である。

具体的データ

図1. TGハマダラカ唾液腺でのmBax遺伝子発現?図2. TGハマダラカ唾液腺での細胞死誘発による唾液腺の萎縮?図3. mBax発現ハマダラカの唾液腺抽出液を用いたべん毛放出アッセイ

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2013~2016年度
  • 研究担当者:笠嶋(炭谷)めぐみ、瀬筒秀樹、山本大介(自治医大)、笠嶋克己(自治医大)、松岡裕之(自治医大)
  • 発表論文等:Yamamoto D*, Sumitani M* et al. (2016) PLoS Pathogens, 12: e1005872. (*equal contribution)