幼若ホルモンによる成虫化抑制の分子機構
要約
幼若ホルモンは、昆虫の幼虫が蛹に変態する際に、変態抑制因子Kr-h1タンパク質の発現を誘導する。Kr-h1は成虫化決定遺伝子E93上流の特定配列に直接結合し、その働きを抑えることにより早熟的な成虫化を抑える。
- キーワード:昆虫、脱皮・変態、幼若ホルモン、成虫化、発育制御技術
- 担当:生物機能利用研究部門・昆虫制御研究領域・昆虫機能制御ユニット
- 代表連絡先:電話 029-838-6071
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
昆虫の脱皮・変態には、昆虫特有なホルモンやタンパク質などの多くの分子が関わる。これらの分子の働きを詳しく解析し、阻害する手法を明らかにできれば、害虫に対する新規殺虫剤の開発や、カイコ等の有用昆虫の発育制御技術の開発に繋がると期待される。幼虫が蛹になる際に、幼若ホルモンには蛹を経ずに直接成虫になるのを抑える成虫化抑制作用があることが知られている。しかし、その詳しい分子機構は不明なため、これを明らかにする。
成果の内容・特徴
- カイコの5齢幼虫では、蛹化の直前に幼若ホルモンにより変態抑制因子Kr-h1遺伝子が一過的に発現し、蛹初期に成虫化決定遺伝子E93が誘導される(図1)。
- 成虫化決定遺伝子E93のプロモーター領域を用いてカイコ培養細胞でレポーター試験を行うと、脱皮ホルモンがE93を発現誘導し、その誘導は幼若ホルモン処理により抑制されることがわかる(図2)。また、RNA干渉作用(RNAi)で Kr-h1タンパクの発現を抑制すると幼若ホルモンによる抑制が消失することから、幼若ホルモンによる抑制にはKr-h1が関与する(図2)。
- E93のプロモーター領域には代表的なKr-h1結合配列が含まれている(図3)。
- Kr-h1タンパク質には、昆虫種間で保存されたアミノ酸配列(C末端保存ドメイン、 CtCD)が存在する(図4)。Kr-h1タンパク質からこの配列を除去するとE93発現の抑制が消失するため、この配列はKr-h1によるE93発現抑制に重要である(図4)。
成果の活用面・留意点
- 害虫の正常な蛹化・成虫化をかく乱するような新規の殺虫剤を開発するための重要な基礎的知見である。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
- 研究期間:2015~2016年度
- 研究担当者:粥川琢巳、上樂明也、伊藤由果、篠田徹郎
- 発表論文等:Kayukawa T. et al. (2017) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 114:1057-1062