紫色LED光で土着天敵ヒメハナカメムシを集め、害虫を減らす技術
要約
波長405nmに発光ピークを持つ紫色LEDを1日3時間照射することにより、アザミウマ等の微小害虫を捕食する土着天敵ヒメハナカメムシを作物上に最大10倍集め、害虫を半減させることができる。
- キーワード:環境保全型農業、生物的防除、LED、光防除、土着天敵
- 担当:生物機能利用研究部門・昆虫制御研究領域・昆虫相互作用ユニット
- 代表連絡先:電話 029-838-6071
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
ヒメハナカメムシは日本全国に分布し、アザミウマなどの微小害虫を捕食する土着天敵である。本種を露地果菜類の栽培に導入できれば、殺虫剤抵抗性をもつ微小害虫の防除や農家の薬剤散布回数および散布量の大幅削減につながると期待されている。植生管理により本種を増やす方法は開発されているため、これを作物上に移動させて長時間留めておく技術があれば、安定的な防除が可能となる。そこで、ヒメハナカメムシが紫色光に強く誘引される特性を利用して、本種利用上の弱点を克服する新技術を開発する。
成果の内容・特徴
- ヒメハナカメムシが405nmに発光ピークを持つ紫色LED光に対して強く誘引されることを利用して、ロープ型紫色LED光源と所定の電流・電圧を流して照射時間を調節するタイマー機能を搭載した制御装置(図1左)を露地果菜類圃場に設置する。
- 茨城県の慣行栽培に則ったナス露地栽培においては、照射強度0.82μmol/m2/sで日没前後の1日3時間照射する(図1右)。
- 紫色光照射区では、非照射区と比べて、ヒメハナカメムシは作物上に最大10倍集まり、アザミウマの密度は半減する(図2)。
成果の活用面・留意点
- 本技術は、紫色光照射により土着天敵を作物圃場内に誘引定着することで、高い防除効果を発揮する。紫色光は、多くの害虫が好む波長と異なるため、天敵を選択的に呼び寄せることができる。本技術は、ナスだけでなく、アザミウマの防除を必要とする各種果菜類の栽培において広く活用が期待できる。
- 紫色光照射の効果を十分に得るためには、マリーゴールドなど複数種のバンカープランツを農地の周囲や畝間に育成する植生管理を実施して、土着天敵の生息密度を上げる必要がある。
- 本技術は自然に発生する土着天敵の「保護・利用」を促す技術であり、照明装置の製品化後に迅速な現場実装が期待できる。
- 照明装置は、平成28年9月より、株式会社シグレイから「光利用型天敵農業サービスパックお試し版」として農家向けに試験的に提供されている。
具体的データ
その他
- 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)、その他外部資金(SIP)
- 研究期間:2014?2016年度
- 研究担当者:霜田政美、上原拓也、戒能洋一(筑波大)、荻野拓海(筑波大)
- 発表論文等:
1)霜田、上原「捕食性カメムシ類の誘引又は定着方法」特願2015-151523 (2015年1月31日)
2)Ogino T.et al.(2016) Sci.Rep. doi:10.1038/srep32302