遺伝子組換えカイコの養蚕農家での飼育システムの構築と実現

要約

緑色蛍光シルクを作る遺伝子組換えカイコについて、第一種使用規程の承認を得て、遺伝子組換えカイコとして世界で初めて養蚕農家での実用的な飼育を可能にすることにより、新たな価値を有する蚕業創出に先鞭をつける。

  • キーワード:遺伝子組換えカイコ、蛍光シルク、農家飼育、生物多様性影響評価
  • 担当:生物機能利用研究部門・新産業開拓研究領域・新特性シルク開発ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-6285
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

中山間地や離島において基幹産業である農林水産業の弱体化が深刻化する中で、遺伝子組換えカイコを利用した新たな機能性シルク素材の産業化が期待されている。これまでの一般的なカイコ品種をはるかに超える高い付加価値を実現するためには、遺伝子組換えカイコの導入が必要である。
そのうえで、蛍光シルクなどの高機能シルクを生産する遺伝子組換えカイコを養蚕農家に導入するためには、カルタヘナ法が定める第一種使用等としての実施が求められているため、生物多様性への影響のおそれがないことを示して大臣承認を得る必要がある。
緑色蛍光シルクを生産する遺伝子組換えカイコ(以下「本遺伝子組換えカイコ」という。)について、関連する行政部局とも丁寧に連絡を取りながら、生物多様性への影響のおそれがないことを科学的に示し、第一種使用規程の大臣承認を得て、一般の養蚕農家での飼育を可能にする。

成果の内容・特徴

  • 本遺伝子組換えカイコを一般の養蚕農家で飼育できるようにするため、カルタヘナ法が定める第一種使用規程の大臣承認を得る必要がある。
  • 第一種使用規程承認申請に際し、競合における優位性、捕食性、有害物質の産生性、交雑性による生物多様性影響を評価するため、野外におけるカイコの生存可能性や、本遺伝子組換えカイコの成育日数や幼虫体重、繭の重量、産卵数、幼虫と成虫の行動範囲などの調査から、本遺伝子組換えカイコは非遺伝子組換えカイコに比べて生物多様性影響を高めるような性質は認められない(図1)。
  • 2017年9月に農林水産大臣および環境大臣より本遺伝子組換えカイコの第一種使用規程の承認を得ることにより、3齢幼虫期から繭までについて養蚕農家での飼育を可能としている(表1、図2、3)。
  • 一般の養蚕農家で遺伝子組換えカイコの実用的な飼育を開始するのは世界で初めての成果であり、単なる養蚕業の復活ではなく、新たな蚕業の創出に先鞭をつけるものとして期待される。
  • 本遺伝子組換えカイコについて承認された第一種使用規程では、飼育する養蚕農家において、カイコの近縁野生種であるクワコをフェロモントラップで捕獲するモニタリングを実施するなど、生物多様性影響の防止に万全を期すこととしている。

普及のための参考情報

  • 普及対象:養蚕農家、製糸工場
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:全国の養蚕農家と製糸工場
  • その他:本遺伝子組換えカイコの第一種使用規程に付属する飼育等要領で、農研機構は本遺伝子組換えカイコを適切に管理するため、幼虫の飼育や繭からの繰糸を行おうとする者についての情報を収集し、適切に管理できる者に限って飼育や繰糸等をさせることが定められている。

具体的データ

図1 5齢幼虫の移動距離(12時間);表1 大臣承認までの経過;図2 養蚕農家での飼育;図3 養蚕農家での蛍光繭


その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(次世代ゲノム)、その他外部資金(25補正「革新プロ」、27補正「地域戦略プロ」)
  • 研究期間:2010~2017年度
  • 研究担当者:河本夏雄、津田麻衣、飯塚哲也、岡田英二、平山力、瀬筒秀樹、田部井豊、行弘研司、冨田秀一郎、桑原伸夫(群馬県蚕糸技術センター)、伊藤寛(群馬県蚕糸技術センター)、池田真琴(群馬県蚕糸技術センター)、下田みさと(群馬県蚕糸技術センター)、木内彩絵(群馬県蚕糸技術センター)
  • 発表論文等:
  • 1)河本ら(2014)蚕糸昆虫バイオテック、83(2):171-179
    2)Komoto N. et al. (2016) J. Insect Biotechnol. Sericol. 85(3):67-71