広食性や殺虫剤抵抗性の機構解明等に有用なハスモンヨトウのゲノム情報

要約

ハスモンヨトウのゲノム配列では、苦味受容体および解毒分解酵素をコードする遺伝子が大幅に増加しており、広食性や殺虫剤抵抗性の発達に寄与していると考えられる。

  • キーワード:ハスモンヨトウ、ゲノム情報、広食性、殺虫剤抵抗性、苦味受容体、解毒分解酵素
  • 担当:生物機能利用研究部門・遺伝子利用基盤研究領域・先進昆虫ゲノム改変ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7007
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

チョウ目ヤガ科のハスモンヨトウ Spodoptera lituraは100種以上の作物を食害可能な広食性と様々な殺虫剤に対する抵抗性を兼ね備えた東アジアの重要農業害虫であり、日本ではダイズの大害虫として知られている。特にダイズの主要産地である九州地方ではダイズの作付面積に対するハスモンヨトウの発生面積が9割近くとなる年もあり、大発生による多大な被害が問題となっている。本研究では、日本を含む国際コンソーシアムの活動でハスモンヨトウのゲノム配列を解読して、広食性や殺虫剤抵抗性の発達等に関連する遺伝子を網羅的に解析することにより、これらの機構解明につながる重要な知見を得ることを目的とする。

成果の内容・特徴

  • ハスモンヨトウのゲノムサイズは438Mbであり、15,317個の予測遺伝子が存在している。
  • ハスモンヨトウのゲノム配列では味覚受容体の一種である苦味受容体遺伝子が223個存在しており、単食性のカイコBombyx moriと比較して大幅に増加している(表1)。
  • ハスモンヨトウのゲノム配列では解毒分解酵素遺伝子のうち、チトクロームP450、カルボキシルエステラーゼ(COE)、グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)の各遺伝子ファミリーがカイコと比較して大幅に増加している(表2)。一方、ABCトランスポーターおよびアミノペプチダーゼN(APN)の遺伝子数はカイコとほぼ同等となっている(表2)。
  • 遺伝子数が大幅に増加している各遺伝子ファミリーでは多数の増加した遺伝子が局所的に並んでいるクラスタ領域が存在している(図1)。これらの領域における一部の遺伝子の発現をRNA干渉作用(RNAi)により抑制すると、ネオニコチノイド剤(イミダクロプリド)に対する感受性が向上する(図2)。
  • 苦味受容体遺伝子および解毒分解酵素遺伝子の大幅な増加は、様々な作物がもつ昆虫に対する防御物質や殺虫剤の識別および無害化を可能とし、ハスモンヨトウの広食性および殺虫剤抵抗性の発達に寄与していると考えられる。

成果の活用面・留意点

  • 本研究の成果は、ハスモンヨトウの広食性および殺虫剤抵抗性の機構解明につながる重要な知見である。
  • 広食性および殺虫剤抵抗性に関連する遺伝子等をターゲットとして、難防除害虫に対する新規の防除手法開発につながることが期待される。

具体的データ

表1 カイコとハスモンヨトウにおける味覚受容体の遺伝子数;表2 カイコとハスモンヨトウにおける解毒分解関連酵素の遺伝子数;図1 ハスモンヨトウにおいて解毒分解酵素遺伝子の大幅な増加がみられるクラスタ領域;図2 P450遺伝子およびCOE遺伝子の発現を抑制した場合のイミダクロプリドに対する感受性向上の効果

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2013~2017年度
  • 研究担当者:上樂明也、塩月孝博、門野敬子、Cheng Tingcai(西南大)、Wu Jiaqi(東京大)、Wu Yuqian(西南大)、Chilukuri V. Rajendra(CDFD)、Huang Lihua(華南師範大)、山本幸治(九州大)、Feng Li(西南大)、Li Wanshun(BGI)、Chen Zhiwei(西南大)、Guo Huizhen(西南大)、Liu Jianqiu(西南大)、Li Shenglong(西南大)、Wang Xiaoxiao(西南大)、Peng Li(西南大)、Liu Duolian(西南大)、Guo Youbing(西南大)、Fu Bohua(西南大)、Li Zhiqing(西南大)、Liu Chun(西南大)、Chen Yuhui(華南師範大)、Tomar Archana(CDFD)、Hilliou Frederique(INRA)、Montagné Nicolas(パリ第6大)、Jacquin-Joly Emmanuelle(INRA)、d'Alençon Emmanuelle(INRA)、Seth K. Rakesh(デリー大)、Bhatnagar K. Raj(ICGEB)、Promboon Amornrat(カセサート大)、Smagghe Guy(ゲント大)、Arunkumar P. Kallare(CDFD)、岸野洋久(東京大)、Goldsmith R. Marian(ロードアイランド大)、Feng Qili(華南師範大)、Xia Qingyou(西南大)、三田和英(西南大)
  • 発表論文等:Chang T. et al. (2017) Nat. Ecol. Evol. 1(11):1747-1756