遺伝子高次構造制御と酢酸による作物乾燥ストレス耐性の付与

要約

モデル植物では、遺伝子高次構造制御を介した酢酸の蓄積が植物の乾燥ストレス耐性に関与している。イネやトウモロコシ、コムギなど様々な作物の根に酢酸を与えることで乾燥ストレスに対する耐性を付与できる。

  • キーワード:酢酸、乾燥ストレス耐性、主要作物、核内遺伝子高次構造制御
  • 担当:生物機能利用研究部門・植物・微生物機能利用研究領域・植物機能開発ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7007
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

地球規模の気候変動に対応した作物開発における主要なターゲットの一つは環境ストレスに対する耐性付与であり、中でも乾燥に対する耐性作物の開発は世界的に喫緊の課題として科学先進国による国際貢献が求められている。本研究は、モデル植物で得られた基礎知見を主要作物に応用し、安全・簡便で機動的な環境ストレス耐性付与技術の確立を目指したものである。
環境ストレスを感知して遺伝子の高次構造を変化させる植物の内在性因子(ヒストン脱アセチル化酵素)に着目し、乾燥耐性獲得の機構解明を通して主要作物に適用可能な新規技術を開発し、その効果を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • モデル植物であるシロイヌナズナの細胞核内で遺伝子の高次構造を制御する因子(ヒストン脱アセチル化酵素)の変異体は乾燥ストレス耐性を示す(図1)。
  • ヒストン脱アセチル化酵素の変異体では、植物がストレスを受けた際に産生されるホルモンであるジャスモン酸に応答する遺伝子群に加えて、酢酸を合成する遺伝子が活性化されるとともに、植物体内のジャスモン酸や酢酸の産生が高まる(図2)。
  • ヒストン脱アセチル化酵素は、通常は酢酸合成に関わる遺伝子に結合してその発現を抑制しているが、乾燥ストレスを受けると酢酸合成遺伝子から離れてその高次構造を変化させ、結果として植物体内で酢酸の合成と蓄積が誘導される。
  • イネやトウモロコシなどの主要作物を含む様々な作物の通常の栽培水に酢酸を加えて生育させると、調べたすべての作物で乾燥ストレス耐性が付与される(図3)。
  • 酢酸を与えた植物体ではジャスモン酸に応答する遺伝子群が活性化され、酢酸はジャスモン酸産生を介した乾燥ストレス耐性を誘導する機能を持つ。

成果の活用面・留意点

  • 作物への乾燥ストレス耐性付与に酢酸が有効であることが示され、安価で安全な乾燥ストレス耐性付与技術につながることが期待される。
  • 本研究で確立された酢酸による乾燥ストレス耐性付与技術は、調べたすべての作物に対して有効であり、作物の基本的な機能に関する普遍的な技術として活用できることが期待される。

具体的データ

図1.シロイヌナズナのヒストン脱アセチル化酵素遺伝子の変異体で見られる乾燥ストレス耐性;図2.酢酸処理により植物体内にジャスモン酸が蓄積する;図3.酢酸による作物への乾燥ストレス耐性の付与

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(戦略的創造研究)
  • 研究期間:2013~2018年度
  • 研究担当者:小川大輔、土生芳樹、金鍾明(理研)、関原明(理研)
  • 発表論文等:Kim J. et al. (2017) Nature Plants 3:17097