病原菌を認識して免疫反応を誘導するセンサーをイネから発見
要約
イネは細胞表面にあるタンパク質OsCERK1を介してバクテリア由来の分子LPSを認識する。これはシロイヌナズナとは大きく異なる認識システムである。OsCERK1はカビに特有の分子キチンのセンサーでもあり、イネの微生物認識において中心的役割を担う。
- キーワード:イネ、バクテリア、リポ多糖(LPS)、防御応答、抵抗性反応、MAMPs
- 担当:生物機能利用研究部門・植物・微生物機能利用研究領域・植物機能制御ユニット
- 代表連絡先:電話029-838-7007
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
植物は動物と同様、微生物に特徴的な分子(MAMPs)を細胞膜上にあるセンサータンパク質を通じて認識し、感染を防ぐために防御反応を開始する能力を備えている。リポ多糖(LPS)はグラム陰性バクテリア由来の代表的MAMPであるが、植物においてはその認識・応答機構はほとんどわかっていない。唯一知られている植物のLPSセンサーはシロイヌナズナのLORE(ロア)であるが、LOREとよく似たタンパク質はアブラナ科植物にしか存在しない。本研究では、植物のMAMPs認識・応答機構の解明を目指し、イネを材料に、カビの代表的MAMP、キチンのセンサータンパク質であるOsCERK1(オーエスサークワン)のLPS誘導性免疫応答における役割を明らかにする。
成果の内容・特徴
- イネの培養細胞にLPS溶液を添加すると細胞が反応し、活性酸素生成レベルが高まり、多数の防御関連遺伝子の発現が変動する。しかし、OsCERK1遺伝子が破壊されたイネではこれらの免疫反応がほとんど起きない(図1)。
- シュードモナス属菌のLPSだけでなく、大腸菌やサルモネラ属菌から抽出されたLPSに対しても、OsCERK1をつくらないイネでは免疫応答レベルが顕著に低下する。
- イネに白葉枯病を引き起こすザントモナス属病原菌から精製したリピドA(LPSの構成成分)に対しても、OsCERK1をつくらないイネでは免疫応答性が顕著に低下する。したがって、イネはOsCERK1を介してLPS中のリピドA部分を認識すると考えられる。
- OsCERK1は構造上、LysM型受容体グループに分類される。シロイヌナズナにもAtCERK1をはじめ8個のLysMタンパク質遺伝子が存在する。これらの遺伝子を持たない変異シロイヌナズナを用いた解析結果は、いずれのLysMタンパク質もLPS誘導性免疫応答に関与しないことを示す。一方、シロイヌナズナのLPSセンサーであるLOREはSD1型受容体グループに分類されるが、イネのSD1型受容体グループのタンパク質3種はいずれもLPS応答に関与しない。
- 以上の結果から、イネとシロイヌナズナでは構造上、大きく異なるタンパク質を利用してLPSを認識すると結論される。OsCERK1はLPSセンサーであると同時に、これまでに、キチンやペプチドクリカンのセンサーであることも明らかにしており、イネの微生物認識において中心的役割を担うタンパク質であるといえる(図2)。
成果の活用面・留意点
- OsCERK1はカビとバクテリア双方のMAMPsに対するセンサータンパク質である。今後のOsCERK1の作用機構の解明は、広範囲の病原菌に有効なイネの病害制御技術開発の基盤となることが期待される。
- 現時点ではOsCERK1だけでLPSを認識できるのか、それとも別のタンパク質との協働が必要なのかは不明である。今後さらなるLPS認識・応答に関わるタンパク質の同定が必要である。
- OsCERK1が属するLysM型受容体タンパク質は多くの植物に保存されていることから、アブラナ科以外の植物ではOsCERK1と類似のタンパク質がLPSセンサーとして働く可能性があり、今後の検証が待たれる。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2012~2017年度
- 研究担当者:西澤洋子、南栄一、香西雄介、賀来華江(明大農)、出崎能丈(明大農)、渋谷直人(明大農)、二宮悠輔(明大農)、岩瀬良介(明大農)、清水佑美(明大農)、瀬古圭都(明大農)、Antonio Milinaro(ナポリ大)
- 発表論文等:Desaki Y. et al. (2018) New Phytologist 217:1042-1049 doi:10.1111/nph.14941