コムギ植物体にDNAを直接導入する新しい形質転換技術
要約
コムギ種子胚茎頂を露出させ、パーティクルガンで金粒子に付着させたDNAを撃ち込むことにより、培養不要の形質転換が可能である。これまで困難であったコムギ実用品種の形質転換が可能となる。
- キーワード:コムギ、形質転換、in planta、パーティクルボンバードメント
- 担当:生物機能利用研究部門・遺伝子利用基盤研究領域・組換え作物技術開発ユニット
- 代表連絡先:電話029-838-8361
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
地球規模の環境変動が続くなか,作物にはこれまでにない環境ストレス耐性が求められる。ゲノム編集など新たな技術を駆使して,従来育種では達成できないような形質を付与する必要性がますます高まっている。しかし、作物への遺伝子導入は依然として難しく、コムギ、オオムギ、ダイズ、トウモロコシなどでは、ある特定の品種にしか形質転換ができず、国産の主要品種には不可能な場合がほとんどである。コムギの場合も「ゆめちから」や「春よ恋」といった国産の主要品種への導入は成功例がない。多くの場合、組織培養による効率的な再分化系が確立してないことが障害となっている。そこで本研究では、ネックとなっている組織培養・再分化のプロセスを使わず、植物体に直接遺伝子を導入することを試みる。着目するのは種子の茎頂組織である。茎頂2層目のL2細胞層は生殖系列であり,花粉や卵細胞に分化する。この細胞層にパーティクルガンを用いてDNAを導入し,形質転換を起こすことで、実用品種に実施可能な形質転換技術の開発を目指す。
成果の内容・特徴
- 1日吸水後の種子胚を用いると第3葉までの除去と茎頂露出を実体顕微鏡下で比較的スムーズに行うことができる(図A)。
- 胚盤より分離した露出胚は、寒天プレート上に40-50個体を直径1cm程度の円周上に並べる。
- DNAは0.6μm金粒子表面にコートさせ、パーティクルガンはBiorad PDS-1000/Heを用い,印加圧1350psiを用いる。
- 金粒子は一部茎頂L2細胞層に到達し、形質転換されたL2細胞から生殖細胞が生じると考えられる。これにより、次世代に遺伝する形質転換体を得ることができる(図B)。
- 本法は培養・再分化不要のため、実用品種「春よ恋」の形質転換が可能であり、効率は0.7%で、品種間差は見られない(図C)。
成果の活用面・留意点
- 本技術は培養系を必要としないことから品種による制限がないため、農業形質の優れた品種への遺伝子導入またはゲノム編集が可能となる。
- 茎頂を露出して培養できる作物であれば本法を利用できることから、広い作物種で利用できる可能性がある。
- 菌の付着が少なく、胚乳が充実した良質な種子を用いることが望ましい。
- 本技術の商業利用に関しては、(株)カネカとの交渉が必要である。
具体的データ

その他
- 予算区分:その他外部資金(資金提供型共同研究、SIP)
- 研究期間:2014~2017年度
- 研究担当者:今井亮三、Linghu Qianyan、濱田晴康(カネカ)、柳楽洋三(カネカ)、三木隆二(カネカ)、田岡直明(カネカ)
- 発表論文等:
1)Hamada H. et al. (2017) Sci. Rep. 7:11443
2)今井(2017)アグリバイオ、1(1):17-18
3)濱田ら「植物の形質転換法」特願2016-97464(2016年5月23日)