腫瘍マーカーを特異的に検出するシルクタンパク質素材の開発

要約

抗体の特異的な結合活性を有するシルクタンパク質素材「アフィニティーシルク」の技術を活用し、消化器系がんの腫瘍マーカーであるCEA(carcinoembryonic antigen:がん胎児性抗原)を定量的に検出できるELISAプレートが作製できる。

  • キーワード:抗体、組換えカイコ、シルクタンパク質、一本鎖抗体、腫瘍マーカー
  • 担当:生物機能利用研究部門・動物機能利用研究領域・動物生体防御ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-8620
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

生体内に侵入した異物(抗原)に働く抗体は特定の種類のタンパク質などに結合する性質をもつことから、基礎研究から医療に至る幅広い分野で利用されているが、その製造コストの高さが問題となっている。そこで本研究では、遺伝子組換えカイコを使用し、抗体として働く性質をもつシルクタンパク質素材「アフィニティーシルク」の技術を活用して実用化に向けた開発を行う。今回は、胃がん・大腸がんなどの消化器系がんの腫瘍マーカーとしてよく知られているCEAを特異的に認識する新しいシルクタンパク質素材を開発し、その効果を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 「アフィニティーシルク」は繭糸のタンパク質であるフィブロインと抗原-抗体反応に重要な抗体の重鎖と軽鎖の可変部(VHとVL)をつないだ一本鎖抗体(single-chain variable fragment:scFv)の融合タンパク質からなる組換えタンパク質である。CEAを特異的に認識する一本鎖抗体(抗CEA-scFv)とフィブロインの融合タンパク質を繭糸に発現する組換えカイコを作出する(図1)。
  • この組換えカイコが産生した繭糸を、9M臭化リチウム溶液で溶解してシルク水溶液を作製する。透析や精製などの特別な処理は行わずに、シルク水溶液を直接96穴の解析用プラスチックプレートに注ぎ、4°Cで一晩コーティングする(図2a)。
  • このシルク水溶液をコーティングしたELISAプレートで、CEAを定量的に効率よく検出できる(図2b)。
  • 組換えカイコが産生した繭1個からELISAプレートを20枚以上作製することが可能で、安価に疾病診断キットを提供できる。

成果の活用面・留意点

  • がんなどの疾病マーカー以外にも、ウイルスや細菌などの病原体に特異的なアフィニティーシルクの開発を行い、それらの病原体の感染有無の迅速な判断に用いる診断キットの材料としての利用が期待される。
  • 他にもアフィニティーシルクの特異的な結合活性を利用した病原体の捕集に役立つフィルターなどの開発も期待される。

具体的データ

図1 フィブロインと一本鎖抗体(scFv)からなるアフィニティーシルク;図2 組換えカイコ産生繭からアフィニティーシルク水溶液を調製する方法およびELISAによる抗原特異的な結合活性の評価

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2015~2017年度
  • 研究担当者:佐藤充、木谷裕、小島桂
  • 発表論文等:
  • 1)Sato M. et al. (2017) Sci. Rep. 7:16077
    2)佐藤ら「機能的な一本鎖抗体の製造方法」特願2017-095347(2017年5月12日)