種子品質に関連するエピゲノムリプログラミングを発見
要約
シロイヌナズナ種子の経時的メチローム・トランスクリプトーム解析を行い、種子成熟・発芽における遺伝子発現変化とDNAメチル化の関連を明らかにした。
- キーワード:DNAメチル化、遺伝子発現、種子成熟、発芽、リプログラミング
- 担当:生物機能利用研究部門・新産業開拓研究領域・有用物質生産作物開発ユニット
- 代表連絡先:電話029-838-6102
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
植物は動物と異なり種子が休眠することでライフサイクルを一時的に止めることができる。DNAメチル化は遺伝子発現やトランスポゾン転移の抑制に関わっている。動物ではリプログラミングによって胚発生過程で親世代から引き継がれたDNAメチル化を消去し、新たにDNAメチル化を再構築するが、植物の形作りにおけるリプログラミングについては不明であった。本研究では胚発生中の種子と発芽中の種子のDNAメチル化パターンおよび遺伝子発現パターンの変化を詳細に解析し、種子品質に関連する、エピゲノムを介した遺伝子発現制御機構を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 種子成熟後期では小分子RNAに依存する経路とメチル化酵素のCMT2に依存する経路によって、ゲノム全体で高CHH(H:G以外の塩基)メチル化が起こり、完熟種子は高メチル化を受けている(図1)。
- 完熟種子の高メチル化は発芽によって受動的かつ急速に解除される(図2)。
- このエピゲノムリプログラミングは主にトランスポゾン内で起きている(図3)。
- 発芽と同調して脱メチル化される領域は、細胞分裂関連遺伝子など、発芽によって発現が誘導される遺伝子の近傍に多く存在する。
- 今回解読したDNAメチル化情報と遺伝子発現情報を公的データベースであるGEOに登録し、オンライン(http://neomorph.salk.edu/Arabidopsis_seed_methylomes.php)で2017年9月15日に公開している。
成果の活用面・留意点
- DNAメチル化は生体内では比較的安定に維持されると考えられていたが、1日単位でもダイナミックに変化する。
- 種子におけるエピゲノムリプログラミングの生物学的意義として、休眠種子におけるDNAメチル化による細胞分裂抑制と発芽による脱メチル化による細胞分裂活性化、トランスポゾン転移の抑制によるゲノムの維持が考えられるが、検証が必要である。
- 本成果はエピゲノム編集による種子品質向上育種に繋げられる。
具体的データ

その他
- 予算区分:競争的資金(科研費)、その他外部資金(JSPS海外特別研究員)
- 研究期間:2012~2017年度
- 研究担当者:川勝泰二、Joseph R. Nery(ソーク研)、Rosa Castanon(ソーク研)、Joseph R. Ecker(ソーク研)
- 発表論文等:
1)Kawakatsu T. et al. (2017) Genome Biol. 18:171
2)「Arabidopsis seed methylomes」 SIGnAL,
- http://neomorph.salk.edu/Arabidopsis_seed_methylomes.php (2017年9月15日)