ワタアブラムシのチトクロームP450遺伝子のネオニコチノイド剤抵抗性への関与

要約

ネオニコチノイド剤に抵抗性を示すワタアブラムシ系統では、2つのチトクロームP450遺伝子CYP6CY22CYP6CY13の過剰発現がネオニコチノイド剤抵抗性の発達に関与している可能性が高い。

  • キーワード:解毒酵素、RNA-seq解析、過剰発現、発現系、抵抗性モニタリング
  • 担当:生物機能利用研究部門・遺伝子利用基盤研究領域・先進昆虫ゲノム改変ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-6075
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

近年、野菜の重要害虫であるワタアブラムシ Aphis gossypiiでは基幹剤であるネオニコチノイド剤に対する抵抗性を発達させた個体群の分布拡大に伴う農業被害の拡大が懸念されている。現在までに、ワタアブラムシのネオニコチノイド剤抵抗性の要因として、ニコチン性アセチルコリン受容体における突然変異を特定している。この突然変異が抵抗性の主要因であると考えられるが、代謝酵素阻害剤を用いた試験結果からチトクロームP450遺伝子による解毒代謝活性増大の抵抗性への関与も予想される。しかし、該当するチトクロームP450遺伝子の特定および機能解析は難しく、明確になっていない。そこで本研究では次世代シーケンス解析により抵抗性関連候補のチトクロームP450遺伝子を選抜し、各種ネオニコチノイド剤の代謝試験による検証を行なって関連遺伝子の有無を特定する。これにより、ネオニコチノイド剤抵抗性モニタリング技術開発につなげる。

成果の内容・特徴

  • ワタアブラムシのネオニコチノイド剤抵抗性系統と感受性系統を用いたRNA-seq解析の結果、抵抗性系統特異的に9つのチトクロームP450遺伝子の発現量が上昇しており、そのうちCYP6CY22CYP6CY13の発現量の上昇が顕著である(図1)。
  • 昆虫培養細胞を用いたチトクロームP450の発現系を最適化することで、酵素活性を有するCYP6CY22CYP6CY13の組換えタンパク質を従来よりも効率的に作製できる(表1)。
  • CYP6CY22CYP6CY13の組換えタンパク質は7種のネオニコチノイド剤をすべて代謝する(図2)。一方、スルホキシイミン系殺虫剤のスルホキサフロルはほとんど代謝しない(図2)。
  • 以上のことから、ネオニコチノイド剤抵抗性のワタアブラムシ系統ではCYP6CY22CYP6CY13の過剰発現がネオニコチノイド剤抵抗性に関与している可能性が高い。

成果の活用面・留意点

  • CYP6CY22CYP6CY13を対象にしたリアルタイムPCR法によるネオニコチノイド剤抵抗性の遺伝子診断法の開発に活用できる。
  • CYP6CY22CYP6CY13の過剰発現を引き起こす要因は特定されていない。要因となるゲノム上の変異等を特定することで、DNAマーカーを用いた簡易的な遺伝子診断法の開発が可能となる。
  • スルホキサフロルはネオニコチノイド剤と同様にニコチン性アセチルコリン受容体を標的とするが、ネオニコチノイド剤とは異なる作用機序をもつ。

具体的データ

図1 ワタアブラムシのネオニコチノイド剤抵抗性系統におけるチトクロームP450 2遺伝子の過剰発現;図2 ワタアブラムシのネオニコチノイド剤抵抗性系統のチトクロームP450組換えタンパク質によるネオニコチノイド7剤およびスルホキサフロルの代謝率;表1 昆虫培養細胞を用いたチトクロームP450発現系の作製手法における改良点

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(次世代ゲノム)
  • 研究期間:2014~2017年度
  • 研究担当者:上樂明也、桑崎誠剛、平田晃一(日本曹達)、下村肇(日本曹達)、岩佐孝男(日本曹達)
  • 発表論文等:Hirata K.*, Jouraku A.* et al. (2017) J. Pestic. Sci. 42(3):97-104
  • (*equal contribution)