抗幼若ホルモン活性評価システムと新規昆虫制御剤候補化合物

要約

培養細胞を用いて、抗幼若ホルモン活性を簡便に評価できるシステムを構築した。また、本評価システムから見出された抗幼若ホルモン活性化合物は、幼若ホルモンの働きを抑え害虫の正常な発育を阻害することから、新規昆虫制御剤の有望な候補になり得る。

  • キーワード:昆虫、変態、幼若ホルモン、抗幼若ホルモン活性化合物、昆虫制御剤
  • 担当:生物機能利用研究部門・昆虫制御研究領域・昆虫機能制御ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-6071
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

近年、既存の殺虫剤に対する抵抗性が深刻化しており、新たな殺虫剤開発が求められている。昆虫の変態を抑制する幼若ホルモンは昆虫固有のホルモンであるため、環境負荷の低い殺虫剤開発を行う上で優れた標的になると考えられる。本研究では、幼若ホルモンの働きを抑える作用(抗幼若ホルモン活性)を簡便に評価できるシステムを培養細胞で構築し、その評価システムを用いて大規模な化合物スクリーニングを行い、新規昆虫制御剤候補を探索することを目的とする。

成果の内容・特徴

  • 幼若ホルモン応答配列とホタルルシフェラーゼ遺伝子を連結した外来遺伝子をカイコ培養細胞に導入し、選択マーカーにより恒常発現株を樹立した。抗幼若ホルモン活性を測定する際には、幼若ホルモンと化合物を同時に添加し、化学発光の低下を指標に化合物の抗幼若ホルモン活性が判定できる(図1)。
  • 本評価システムは、低濃度の幼若ホルモンに反応して化学発光が観察できるため(図2)、高感度で抗幼若ホルモン活性を測定することができる(図2)。
  • 本評価システムを使用して化合物ライブラリー(約1万化合物)をスクリーニングすると、抗幼若ホルモン活性を示す候補化合物が得られた。
  • スクリーニングで得られた約80種類の候補化合物の中には、カイコ幼虫に塗布すると、幼虫形質の維持に必須の遺伝子Kr-h1の発現を抑えたり(図3)、皮膚の一部だけ蛹になる幼虫や幼虫脱皮の回数が通常より減って小さな蛹に変態する個体が出現するなどの発育阻害作用を示すものがある(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 抗幼若ホルモン活性化合物は、最も摂食量が多い幼虫期間を短縮するため、害虫による食害を抑えることができる。
  • 本研究で見出された化合物の骨格構造をもとに構造改変を進め、害虫防除に実用的な効果を示す新規殺虫剤が開発されれば、現在深刻な問題となっている殺虫剤抵抗性害虫による被害の軽減に大きく貢献できる。
  • 現在、農薬メーカー及び大学と共同で実用化に向けて研究開発を進めている。

具体的データ

図1 抗幼若ホルモン活性評価システム;図2 本評価システムの幼若ホルモン(JH I)に対する応答性;図3 抗幼若ホルモン活性化合物によるKr-h1遺伝子の発現抑制効果;図4 カイコ個体に抗幼若ホルモン活性化合物を塗布した際に生じる異常個体

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2013~2017年度
  • 研究担当者:粥川琢巳、篠田徹郎、米須清明(東大創薬機構)、岡部隆義(東大創薬機構)
  • 発表論文等:粥川ら「有害生物防除剤」特願2017-134415(2017年7月10日)