天敵ナミヒメハナカメムシ体表に含まれる(E)-2-octenalは本種の逃避行動を引き起こす

要約

ナミヒメハナカメムシから分泌される成分(E)-2-octenalは、本種の逃避行動を引き起こす。本成分を植物に滴下することにより、本種を効率的に植物上から分散させることができる。

  • キーワード:環境保全型農業、生物的防除、情報化学物質、土着天敵、行動制御技術
  • 担当:生物機能利用研究部門・昆虫制御研究領域・昆虫相互作用ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-6071
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ナミヒメハナカメムシ(Orius sauteri)は日本全国に分布し、アザミウマ類などの微小害虫を捕食する土着天敵である。本種を害虫防除に利用するために、現行では、天敵温存植物上で本種を増殖させる方法が確立されている。増殖した天敵の作物への移動を促すことができれば、より効率的な防除が可能となる。本研究では、カメムシ類が分泌する臭気成分に着目し、天敵温存植物から本種の分散を促進する技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • (E)-2-Octenalは、ナミヒメハナカメムシの幼虫、オス成虫、メス成虫体表のヘキサン抽出物から共通に検出される主要成分である。
  • 本成分を植物体に処理すると、集合しているナミヒメハナカメムシが強い逃避行動を示す(図1)。
  • 本成分はナミヒメハナカメムシの幼虫、オス成虫、メス成虫に対して用量依存的に逃避行動を引き起こす(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 本成分は一時的にナミヒメハナカメムシの逃避行動を促すが、本成果で調査した用量の範囲内では発育や生存に影響しない。
  • 本技術は、天敵温存植物で増殖したナミヒメハナカメムシの作物への分散を補助する行動制御剤としての応用が期待される。
  • 土着天敵の防除効果を得るためには、マリーゴールドなど複数種の天敵温存植物を農地の周囲や畝間に育成して、土着天敵の生息密度を上げる必要がある。
  • 現在、天敵温存植物から作物への天敵の分散については、天敵温存植物の刈り取り等の方法が行われている。本技術によって、より効率的な防除と労働負荷の軽減が期待される。

具体的データ

図1 (E)-2-Octenalによる逃避行動の軌跡;図2 逃避行動の(E)-2-octenal用量依存的増加

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2016~2017年度
  • 研究担当者:上原拓也、霜田政美、前田太郎、辻井直、安居拓恵
  • 発表論文等:上原、霜田「ハナカメムシの忌避剤」特願2017-192467(2017年10月2日)