ミノムシシルクの産業利用に向けての開拓

要約

ミノムシの糸は、弾性率、破断強度、およびタフネスのすべてにおいてクモの糸を上回っている。ミノムシから産業利用可能な形態である1本の長繊維として真っ直ぐに長い糸を採糸する基本技術を開発することにより、ミノムシシルクは素材化可能な新しいシルク繊維となる。

  • キーワード:シルク新素材、高機能天然繊維、昆虫機能利用、未知・未利用シルク、新産業創出
  • 担当:生物機能利用研究部門・新産業開拓研究領域・新素材開発ユニット
  • 代表連絡先:029-838-6102
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

Society5.0社会の実現に向けて、経済発展と社会的課題の解決を両立させるスマート素材開発の促進が求められている。こうした中、自然界の繊維で最強と言われているクモの糸を手本にした革新的バイオ素材が、脱石油社会に貢献する持続可能な夢の繊維として世界中で研究されている。一方、我々は、未知もしくは未利用なシルクから「もっと強い繊維」を探索し、繊維素材として産業利用できるカタチに成形する技術を開発して社会実装する取り組みを進めている。本研究では、ミノガの幼虫であるミノムシが作る糸に注目し、ミノムシの糸の物性を正確に測定する技術を開発する。また、天然状態では産業利用できないミノムシの糸を(図1、2)、長繊維性を維持したまま真っ直ぐな長い糸として採糸する技術を開発することで、あらゆる産業分野で利用可能な素材形状で提供できるシステムを構築する。

成果の内容・特徴

  • ミノムシの糸の断面形状の特徴を明らかにしたことで、断面積が簡便に正確に測定できる。これにより、ミノムシ糸の弾性率、破断強度、破断伸度、タフネスの値を正確に評価できる。
  • オオミノガのミノムシが吐く糸の弾性率、破断強度、およびタフネスは、すべてにおいてクモの糸より高い(表1)。また、ミノムシ糸の引っ張り変形に対する戻りやすさ、および破断までの変形に対する抵抗挙動はクモ糸と異なり、構造材料用の繊維としては、クモ糸よりもミノムシ糸の方が適している。
  • ミノムシに特定の道を移動させることで糸を真っ直ぐ長く採糸できる(図2)。長繊維のまま採糸されたミノムシの糸を複数本合わせてできた生糸(図3)は、工業用繊維として利用できる。
  • ミノムシを殺さず生きたまま採糸し、採糸した後は次の世代に命を繋げることができる。
  • 巣(ミノ)内のミノムシの状態が外部から識別可能となる方法を見出したことで、ミノムシが活動状態なのか休止中なのかを外部より判断可能となる。この識別方法は、ミノムシを産業利用する場合に必要となる、採集、飼育、採糸等のすべての工程で欠かせない作業である。

普及のための参考情報

  • 普及対象:繊維材料や複合材料などの素材メーカー
  • 普及予定企業数:2021年までに3社以上を見込む

具体的データ

表1 1本糸の物性比較,図1 ミノムシが吐く糸のイメージ図,図2 ミノムシが移動した際に吐いた糸の束,図3 本手法で採糸した糸

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(SATREPS)
  • 研究期間:2015~2018年度
  • 研究担当者:吉岡太陽、亀田恒徳
  • 発表論文等:
    • 吉岡ら「巣内のミノムシの状態を識別する方法及び活動期のミノムシを採取する方法」特開2018-74951(2018年5月17日)
    • 吉岡ら「長尺ミノムシ絹糸の生産方法及びその生産装置」特開2018-197415(2018年12月13日)