ツマグロヨコバイ唾腺遺伝子NcPS75はイネ篩管吸汁に必須

要約

ツマグロヨコバイ唾腺遺伝子NcSP75の抑制によりツマグロヨコバイの生存率低下、成長遅滞、産卵数低下が起きる。NcSP75はイネ篩管吸汁に必須のエフェクターであり、その抑制でツマグロヨコバイのイネ篩管吸汁が阻害され、栄養不良が起きたと考えられる。

  • キーワード:ツマグロヨコバイ、エフェクター、唾腺、イネ、篩管吸汁
  • 担当:生物機能利用研究部門・昆虫制御研究領域・昆虫植物相互作用ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7419
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ツマグロヨコバイは口針をイネ類に刺して篩管液から栄養分を吸汁する害虫である。吸汁の際ヨコバイはイネ内部に唾液を吐出する。ツマグロヨコバイの唾液にはイネ側の防御を抑えて篩管吸汁をするための成分が含まれていると考えられる。そこで本研究では唾腺遺伝子と吐出タンパクのリストからツマグロヨコバイの篩管吸汁に必須な遺伝子を同定し、害虫抵抗性イネ作出のためのターゲットを得ることを目的とする。

成果の内容・特徴

  • ツマグロヨコバイの唾腺遺伝子(約5万種)と吐出タンパク(約70種)のデータを作成し、高発現の遺伝子を中心にRNAiによる遺伝子発現抑制を行い、生存率や成長速度に変化が現れるものをスクリーニングする。
  • NcSP75抑制により、幼虫では生存率低下と成長遅滞が(図1)、メス成虫では産卵数減少が見られる(データ略)。
  • NcSP75抑制による生存率低下はイネで飼育したときのみ見られる(図2)。NcSP75はイネ上での生存に必須と考えられる。
  • NcSP75遺伝子を抑制したときの篩管吸汁時間は対照の半分以下に減少する(図3)。糖やアミノ酸などの栄養素はほぼ篩管由来である。NcSP75を抑制したとき篩管吸汁が阻害され、栄養不良のために生存率低下や産卵数低下が起きたと考えられる。
  • NcSP75はツマグロヨコバイでは初めての篩管吸汁に必須なタンパク因子(エフェクター)の発見である。

成果の活用面・留意点

  • NcSP75タンパクが働きかけるイネの因子が想定される。イネ因子を同定できれば、それをゲノム編集によって削除または改変することでNcSP75が作用できない抵抗性イネを作出することが可能となる。
  • NcSP75は既知タンパクとの相同性が見られず機能は不明であるため、吸汁にどう作用しているかの機能を解明するにはさらに研究が必要である。
  • この手法はほかの吸汁性害虫でのエフェクター発見にも利用できると考えられる。

具体的データ

図1 NcSP75抑制による生存率低下と成長遅滞,図2 イネと人工飼料でのツマグロヨコバイの生存率,図3 篩管吸汁時間

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2016~2018年度
  • 研究担当者:松本由記子、服部誠
  • 発表論文等:Matsumoto Y. and Hattori M. (2018) PLoS ONE 13(9):e0202492 doi:10.1371/journal.pone.0202492