病害抵抗性と花や種子のサイズに関与するイネ遺伝子

要約

イネのBSR2遺伝子を高発現することにより、イネ及びシロイヌナズナで紋枯病を含む複数の病害に対し抵抗性を示し、生育はやや遅れるものの花や種子のサイズは増大する。

  • キーワード:イネ、病害抵抗性、紋枯病、花器官、シロイヌナズナ
  • 担当:生物機能利用研究部門・植物・微生物機能利用研究領域・植物機能制御ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-8361
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

リゾクトニア病は200以上の植物種に感染することが知られている多犯性で難防除の病害であるにもかかわらず、従来の交配育種で導入可能な抵抗性遺伝子の報告はほとんどない。イネの3大病の1つである紋枯病もリゾクトニア病に属す。本研究では、高発現することにより紋枯病抵抗性を付与する遺伝子をイネより単離・同定し、シロイヌナズナやイネで紋枯病以外の病害にも有効かどうか検定すると共に、同定した遺伝子の高発現が生育等に及ぼす影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 新規のシトクロームP450タンパク質(CYP78A15)をコードするBSR2 (Broad-Spectrum Resistance2、広範な抵抗性の意)遺伝子の完全長cDNAをシロイヌナズナで高発現させると、病原細菌のトマト斑葉細菌病菌、病原糸状菌のアブラナ科野菜類炭疽病菌及びリゾクトニア菌の3種類の病原体に抵抗性を付与できる(図1)。
  • イネのBSR2をイネで高発現することにより、紋枯病菌(図2)及び褐色紋枯病菌の2種類のリゾクトニア菌に対する抵抗性を付与することができる。
  • BSR2高発現シロイヌナズナ、高発現イネでは花器官、種子等のサイズが増大する(図3、図4)。また、原品種に比べ葉間期がやや長くなるため生育はやや遅れ、稔性は著しく低下する。
  • RNAi法によるBSR2ノックダウンイネでは、紋枯病抵抗性が低下し、葉間期はやや短くなるものの種子サイズが小さくなる。これはBSR2がイネで本来、紋枯病抵抗性、種子サイズ、及び葉間期(生育速度)に関与していることを示す。

成果の活用面・留意点

  • BSR2遺伝子は高発現することにより、単子葉植物のイネ、双子葉植物のシロイヌナズナの両方に病害抵抗性と花の大型化等を付与できるため、この性質は多くの作物に適用可能と考えられる。特に、観賞用の花きが最も有望だと思われる。
  • BSR2はシトクロームP450タンパク質をコードしているので、何らかの低分子化合物の生産に関与し、それが上記の性質をもたらすことが予想される。よって、この化合物を同定できれば、薬剤により上記の性質を付与することも可能になると考えられる。

具体的データ

図1 BSR2高発現シロイヌナズナの病害抵抗性,図2 BSR2高発現イネの病害抵抗性,図3 BSR2高発現シロイヌナズナの花、長角果、種子,図4 BSR2高発現イネの種子

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(次世代ゲノム)、競争的資金(イノベ創出強化)、その他外部資金(科学技術振興調整費)
  • 研究期間:2007~2018年度
  • 研究担当者:森昌樹、前田哲、Dubouzet, Joseph G.、廣近洋彦、近藤陽一(理研)、松井南(理研)、小田賢司(岡山県農総セ・生物科学研)
  • 発表論文等:Maeda S. et al. (2019)Sci. Rep. 9:587 doi:10.1038/s41598-018-37365-1