ゲノム編集によって作出された高オレイン酸・低リノール酸米

要約

CRISPR/Cas9を利用して、オレイン酸からリノール酸への不飽和化を触媒する酵素遺伝子OsFAD2-1を破壊することにより脂肪酸組成を改変できる。OsFAD2-1破壊イネ系統では、種子のオレイン酸含有率が顕著に増加し、リノール酸含有量が検出限界以下まで低下する。

  • キーワード:イネ、脂肪酸、ゲノム編集、遺伝子破壊、代謝改変
  • 担当:生物機能利用研究部門・遺伝子利用基盤研究領域・先進作物ゲノム改変ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-8361
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

こめ油はビタミンEやγ-オリザノール等の健康機能性成分を多く含み、脂肪酸組成のバランスが良い植物油である。脂肪酸のうち、オレイン酸はFatty Acid Desaturase 2(FAD2)によってリノール酸に不飽和化される。オレイン酸は健康によいこと、また、脂肪酸の不飽和度が高まると油が酸化されやすくなること等から、これまでに、ゲノム編集を利用してFAD2遺伝子を破壊し、オレイン酸含有率を増加させ、リノール酸含有率を減少させたダイズ等が開発されている。
そこで本研究では、イネのFAD2遺伝子のうち、種子で発現量が高いOsFAD2-1遺伝子に着目し、人工制限酵素CRISPR/Cas9によって破壊することにより、オレイン酸含有率が高く、かつリノール酸含有率が低い米を作出する。

成果の内容・特徴

  • 人工制限酵素CRISPR/Cas9を利用し、脂肪酸組成を改変するために重要な遺伝子であるイネFAD2-1遺伝子に変異を導入する(図1)。得られた植物体では、標的部位に1塩基の挿入、または8塩基の欠失が確認され、いずれの変異体もFAD2の酵素機能が失われていることが予想される(図2)。
  • FAD2-1遺伝子に変異がホモで導入された種子では、オレイン酸含有率が野生型の2倍以上(全脂肪酸に対して約80%)に増加する。一方、リノール酸含有量は検出限界以下まで低下する(図3)。
  • FAD2-1遺伝子に変異がヘテロで導入された種子では、オレイン酸含有率が10%程度増加し、リノール酸含有率が10%程度減少する(図3)。

成果の活用面・留意点

  • FAD2-1遺伝子やその発現制御領域を精密に改変することにより、脂肪酸組成を必要に応じて改変できると考えられる。
  • 他の生物で報告されているゲノムや形質等の情報を基に、作物の目的形質を改変するために必要な標的遺伝子を選抜し、ゲノム編集により標的遺伝子に変異を導入することが可能である。このストラテジーは、今後のゲノム編集を利用した形質改変に利用できると期待される。
  • 今後は農業形質の特性評価を進めることを計画している。

具体的データ

図1 FAD2-1遺伝子の構造,図2 FAD2-1遺伝子に導入された変異,図3 変異イネの種子における脂肪酸組成

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(SIP)
  • 研究期間:2014~2018年度
  • 研究担当者:雑賀啓明、阿部清美、荒木悦子、鈴木保宏、土岐精一
  • 発表論文等:Abe K. et al. (2018) Plant Physiol. Biochem. 131:58-62