改変型SpCas9の利用による変異導入位置自由度の拡大

要約

NGをPAM配列として認識する改変型SpCas9(SpCas9-NGv1)を用いることにより、植物におけるゲノム編集が可能な位置の制限が大幅に緩和され、合わせてデアミナーゼを用いることで、塩基置換の位置的な制約も軽減される。

  • キーワード:CRISPR/Cas9、ゲノム編集、PAM、塩基置換
  • 担当:生物機能利用研究部門・遺伝子利用基盤研究領域・先進作物ゲノム改変ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-8361
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

CRISPR/Cas9システムにおいては、Cas9が認識するPAM配列の有無がゲノム編集可能な位置の制約となる。本研究は、構造科学に基づいて改変されたSpCas9を植物のゲノム編集に利用し、変異導入位置の制約低減を目指すものである。SpCas9は本来NGGをPAM配列とするが、東京大学で開発された改変型SpCas9[SpCas9-NG(ARVRFRR) Nishimasu et al. (2018) Science;本稿ではSpCas9-NGv1と表記]はNGをPAM配列とする。SpCas9-NGv1を植物のゲノム編集に適用し、切断に伴う変異導入位置の自由度拡大につなげるとともに、SpCas9-NGv1とcytidine deaminaseの融合タンパクの利用によるCからTへの塩基置換導入を試みる。

成果の内容・特徴

  • 野生型SpCas9(SpCas9-WT、図1A)に7アミノ酸置換を導入したSpCas9-NGv1(図1B)は、NGをPAM配列として認識し、SpCas9-WTでは変異を導入できないNGA、NGT、NGCの近傍にも変異を導入することが可能である(図2)。
  • SpCas9-NGv1のoff-target変異導入頻度はSpCas9-WTよりも低い(表1)。
  • SpCa9-NGv1にD10A変異を導入してnickcaseタイプに改変し、さらにcytidine deaminaseを融合させたタンパク質(図1C)を用いることにより、NG近傍にCからTヘの塩基置換を導入することができる(図3)。

成果の活用面・留意点

  • SpCas9のPAM配列がNGGからNGに変わることで、変異導入可能な位置が4倍になり、希望する位置に変異を導入しやすくなる。
  • PAM配列の制約が軽減されることで、off-target変異が入る可能性のある場所も増えるが、SpCas9-NGv1のoff-target変異活性そのものはSpCas9-WTよりも低いため、off-target変異の頻度は野生型SpCas9と変わらないか減少する。
  • 遺伝子破壊を目的とするゲノム編集では、変異(塩基の挿入または欠失)の導入位置はそれほど厳密である必要はない。一方、アミノ酸置換による機能付与型のゲノム編集を目指す場合、特定の塩基を改変する必要があり、PAM配列の緩和の有用性は大きい。

具体的データ

図1 実験に用いた野生型ならびに改変型SpCas9,図2 野生型ならびに改変型SpCas9を用いたイネ変異誘導,表1 野生型ならびに改変型SpCas9によるoff-target変異効率,図3 改変型SpCas9、cytidine deaminase融合タンパク質を用いた塩基置換導入

その他

  • 予算区分:その他外部資金(SIP)
  • 研究期間:2016~2018年度
  • 研究担当者:遠藤真咲、三上雅史(横浜市立大院)、賀屋秀隆、遠藤亮、伊藤剛(高度解析センター)、西増弘志(東大)、濡木理(東大)、土岐精一
  • 発表論文等:Endo M. et al. (2019) Nature Plants 5(1):14-17 https://doi.org/10.1038/s41477-018-0321-8