カメムシに特異的な免疫の仕組み

要約

果樹の害虫であるチャバネアオカメムシは、免疫応答を活性化する、これまで他の昆虫では知られていない微生物認識タンパク質を持つ。カメムシ類だけに作用する新しい害虫制御技術の開発につながる可能性がある。

  • キーワード:昆虫免疫、IMD経路、Toll経路、リシンモチーフ(LysM)、ペプチドグリカン認識タンパク質(PGRP)
  • 担当:生物機能利用研究部門・昆虫制御研究領域・昆虫微生物機能ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-8361
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

食の安全や環境の保全に対する消費者の関心の高まりを背景として、害虫だけに作用する選択性の高い農薬の開発が求められている。害虫(昆虫)はヒトを含む多くの動物とは異なる免疫システムを持っているので、これを低下させることができれば、環境中の細菌などを感染させることにより害虫だけを排除する新たな技術の開発につながると考えられる。
一方で、これまでは全ての昆虫種が同じメカニズムで免疫を働かせていると考えられていたが、近年の次世代シーケンサーを用いた比較ゲノム解析から、カメムシ目の昆虫は他種とは異なる免疫機構を持つことが分かってきている。カメムシ目は、アブラムシ、ウンカ、キジラミ、コナジラミなど農業上問題となっている多くの害虫を含む。そこで、カンキツ類やナシ、カキ、ウメなど果樹全般の害虫であるチャバネアオカメムシ(図1)の免疫機構に関する研究に取り組み、カメムシ目昆虫特有の免疫応答メカニズムの一端を解明する。

成果の内容・特徴

  • ショウジョウバエ等のモデル昆虫を用いた先行研究から、昆虫の免疫応答は主にPGRPと呼ばれるタンパク質が細菌を感知することで活性化されることが分かっている。PGRPは細菌の表面に存在するペプチドグリカンを認識する。
  • 遺伝子の発現を抑えるRNAiという手法でPGRPの働きを抑制した後に大腸菌を注射すると、チャバネアオカメムシの抗菌性ペプチドの生産量が減少し、免疫応答が低下する。次に、植物の細菌感染認知に関与するLysMがカメムシ目昆虫にも存在することに着目し、この遺伝子の発現を抑える実験を行うと、PGRPと同様に、LysMの発現を抑えたカメムシでも抗菌性ペプチドの生産量が下がる(図2)。
  • チャバネアオカメムシでは、PGRPだけでなくLysMも細菌の侵入を認識し、免疫応答を活性化する。
  • カメムシ目昆虫には特有の微生物認識タンパク質が存在することを、世界で初めて示した研究成果である。

成果の活用面・留意点

  • 本研究成果は、直接、害虫を殺す技術の開発に関する成果でなく、昆虫制御のターゲットとなりうる遺伝子・タンパク質の発見である。
  • LysMをコードする遺伝子はカメムシ目以外の昆虫からは見つかっていない。この働きを抑えるような物質を創出すれば、カメムシ目昆虫だけに作用し、他の有用昆虫等の生物に影響しない、環境にやさしい農薬の開発に応用できると期待される。

具体的データ

図1 チャバネアオカメムシ成虫,図2 各種ペプチドグリカン認識タンパク質の働きを抑制した場合の抗菌性ペプチド遺伝子の発現量

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2016~2017年度
  • 研究担当者:西出雄大、陰山大輔、横井翔、上樂明也、田中博光、二橋亮(産総研)、深津武馬(産総研)
  • 発表論文等:Nishide Y. et al. (2019) Proc. R. Soc. B 286:20182207 https://doi.org/10.1098/rspb.2018.2207