ゲノム編集を利用して解明したカイコ薬剤代謝遺伝子の機能

要約

カイコのbmGSTu2タンパク質の結晶構造解析から、酵素機能には5つのアミノ酸残基が必須である。ゲノム編集を用いた機能解析により、bmgstu2遺伝子の変異体では薬剤への感受性が増加したことから、bmgstu2は薬剤代謝に関わっており、新規殺虫剤の開発などに利用できる。

  • キーワード:カイコ、ゲノム編集、TAL-PITCh法、薬剤代謝
  • 担当:生物機能利用研究部門・新産業開拓研究領域・カイコ機能改変技術開発ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-8361
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ゲノム編集技術は、農作物の改良や医療応用のみならず、遺伝子の機能解明を行う上でも重要な技術である。カイコではゲノム編集ツールの一つであるTALENがきわめて効率よく機能し、様々な遺伝子機能解析が進められている。近年ではTALENを応用したTAL-PITCh法という手法が開発され、この方法によりノックアウト系統の作出の際にGFPなどのマーカー遺伝子を挿入することができ、変異系統の選抜および維持を容易に行うことができる。
gst (glutathione S-transferase)遺伝子は、原核生物から真核生物まで幅広く存在する遺伝子である。カイコのgst遺伝子は7つのグループに分類され、その多くについては機能が不明である。本研究ではカイコgst遺伝子の一つであるbmgstu2遺伝子に着目しその機能を明らかにする。具体的には、bmGSTu2タンパク質の構造解析を行ってその特徴を明らかにするとともに、TAL-PITCh法を用いてbmgstu2遺伝子のノックアウト系統を作出し、機能解析を行う。

成果の内容・特徴

  • カイコbmGSTu2タンパク質の立体構造は結晶構造解析により明らかにできる(図1)。
  • 構造解析により推定した、基質と結合し酵素機能に必須の役割を果たすと考えられる5つのアミノ酸残基(Pro13, Tyr107, Ile118, Phe119, Phe211)に変異を導入すると酵素活性が大きく低下する(図2)。
  • TAL-PITCh法を用いて、GFPで選抜可能なbmgstu2遺伝子のノックアウト系統を作出する(図3)。
  • ノックアウト系統では、有機リン系の薬剤であるダイアジノンへの感受性が増加する。さらにアセチルコリンの量が増加し、これはダイアジノンによりアセチルコリンエステラーゼの活性が阻害されることを示している。
  • TAL-PITCh法を未知の遺伝子の機能解明に用いたケースは本研究が初めてである。

成果の活用面・留意点

  • TAL-PITCh法は汎用性が高く、カイコおよび他の昆虫の様々な遺伝子の機能解析に用いることが可能であると想定される。
  • TAL-PITCh法によりGFPなどを挿入することで、変異体を容易に判別することが可能になり、変異系統の選抜および維持が大幅に省力化される。
  • bmGSTu2タンパク質の基質代謝に関わるアミノ酸が同定され、この知見は新たな殺虫剤の開発に有用である。

具体的データ

図1 bmGSTu2タンパク質の構造,図2 変異導入したbmGSTu2タンパク質の酵素活性,図3 TAL-PITCh法によるbmgstu2遺伝子のノックアウト

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2015~2018年度
  • 研究担当者:坪田拓也、瀬筒秀樹、山本幸治(九州大)、東浦彰史(大阪大)、広渡愛子(九州大)、山田直隆(九州大)、中川敦史(大阪大)
  • 発表論文等:Yamamoto K. et al. (2018) Sci. Rep. 9:16835