豚のワクチン応答能を向上させるDNAマーカー

要約

豚NLRP3遺伝子の2906番目の一塩基多型(A2906G)は、細菌感染症に対するワクチン接種後の有効性と関連しており、この多型を種豚選抜時のDNAマーカーとすることで、ワクチン応答能を指標とした豚の抗病性改良が可能である。

  • キーワード:豚、細菌感染症、ワクチン、DNAマーカー、NLRP3
  • 担当:生物機能利用研究部門・動物機能利用研究領域・動物生体防御ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-8620
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

養豚業において感染症による経済的損失は甚大である。現在、抗生物質投与やワクチン接種による防除が主要な対策であるが、薬剤耐性菌出現のリスクから抗生物質の使用は控えられるべきであり、ワクチンによる疾病防除の重要性が増大している。ところが、ワクチンの接種効果には豚の個体間でばらつきがあり、豚自身の免疫関連遺伝子の塩基配列の多様性がこの一因であると考えられる。
担当者らは、生体で様々な炎症反応に関与することが知られている、免疫関連遺伝子の一つであるNLRP3(nucleotide binding oligomerization domain containing-like receptor family pyrin domain containing 3)の、豚での2906番目のアデニンがグアニンに変化する多型(A2906G)(アミノ酸では969番目のグルタミンがアルギニンに変化(Q969R))が、NLRP3の機能を向上(炎症性サイトカインIL-1βの産生を亢進)させることをin vitro実験系で明らかにしている。本研究は、この遺伝子多型(A2906G)とワクチン接種後の抗体応答(病原体由来の物質を認識できる抗体の血中での増加)との関連を明らかにすることにより、ワクチン応答能を向上させるDNAマーカーの開発に資することを目的とする。

成果の内容・特徴

  • 大ヨークシャー種の育成豚に対して、豚の呼吸器系疾患である豚胸膜肺炎及びグレーサー病のワクチンを生後35日目、60日目の2回接種する。接種の3週間後には、胸膜肺炎の原因菌であるアクチノバシラス・プルロニューモニエ2型(App2)、グレーサー病の原因菌であるヘモフィルス・パラスイス2型(Hps2)及び5型(Hps5)の抗原に対する抗体価が上昇する(図1)。
  • 抗体価を測定した個体において、NLRP3遺伝子の一塩基多型(A2906G)の遺伝子型を判別し抗体応答との関連を解析する。NLRP3-2906 A/G個体(NLRP3の2906番目が機能亢進型のG型である染色体を一つ持つ個体)はNLRP3-2906 A/A個体(2906番目が通常型のA型である染色体しか持たない個体)よりも、App2、Hps2及びHps5に対する抗体応答が有意に高い(図2)。
  • NLRP3遺伝子の2906番目の塩基(A/G)は西洋系の豚商用品種のうち、ランドレース種、大ヨークシャー種、バークシャー種で多様性が高い(表1)。東洋系品種である金華豚やニホンイノシシには多様性が存在していない。

成果の活用面・留意点

  • 当該多型は一般的に豚肉生産に用いられる豚商用品種で多様性が残存しており、ワクチン応答能を指標とした抗病性改良のためのDNAマーカーとして、高い普及効果を期待できる。
  • ワクチン接種効果の向上を通じた抗生物質の使用削減により、養豚経営における衛生経費の低コスト化が期待できる。
  • 豚肉中の残留薬剤の低減により、安心安全を求める消費者への訴求力の高い豚肉生産が期待できる。

具体的データ

図1 ワクチン接種後の抗体応答,図2 ワクチン接種後の抗体応答とNLRP3の一塩基多型(A2906G)との関連,表1 NLRP3の一塩基多型(A2906G)の各品種等における遺伝子頻度

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(次世代ゲノム)
  • 研究期間:2016~2018年度
  • 研究担当者:新開浩樹、寺田圭(静岡県畜産研究所中小家畜研究センター)、土岐大輔(JATAFF研)、遠野雅徳、上西博英
  • 発表論文等:Shinkai H. et al. (2018) Anim. Sci. J. 89(8):1043-1050