カイコ-バキュロウイルス発現系で哺乳類型の糖タンパク質を生産するシステム

要約

哺乳類型のタンパク質にみられる糖鎖の構成成分であるシアル酸が付加されたタンパク質を、カイコで生産する技術である。本技術の活用により、カイコで生産するタンパク質の糖鎖制御が可能となり、医薬品や診断薬の原料となる高機能な有用タンパク質をカイコで生産できる。

  • キーワード:カイコ、バキュロウイルス、糖タンパク質、糖鎖、シアル酸
  • 担当:生物機能利用研究部門・新産業開拓研究領域・カイコ機能改変技術開発ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-6102
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

バキュロウイルスをカイコに感染させて有用タンパク質をつくらせる生産系が動物医薬品や血液凝固検査薬などの分野で実用化されているが、カイコで生産したタンパク質には哺乳類型とは異なる昆虫型の短い糖鎖が付加されることが今後の課題となっている。糖鎖修飾は、タンパク質の機能や安定性に大きく関わるとともに、糖鎖の違いによってアレルギーなどを引き起こすこともあるため、カイコで生産する有用タンパク質に哺乳類型と同様の糖鎖を付加する技術の開発が求められている。
そこで本研究では、哺乳類の糖鎖修飾に関わる遺伝子をカイコで発現させるとともに、昆虫では合成できない糖の一種であるシアル酸などを外部投与することによって、シアル酸を含む哺乳類型の長い糖鎖をカイコで生産するタンパク質に付加する技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 本システムは、糖鎖修飾の中でも主要な糖鎖であるアスパラギン(N)結合型糖鎖について、ヒトなどの哺乳類に見られるシアル酸を含む糖鎖(図1A)をカイコで付加可能にするものである。
  • これまで、カイコで組換えバキュロウイルスによって有用タンパク質を発現させた場合、糖鎖構造はヒトを含めた哺乳類とは異なり、主に短い糖鎖構造が観察されていたため(図1B)、ガラクトースおよびシアル酸を付加させるための哺乳類の糖転移酵素遺伝子を、組換えバキュロウイルスを外部投与(注射)することによって発現させる(図2)。
  • 昆虫ではシアル酸を合成できないため、シアル酸を供給する方法を検討した結果、シアル酸の原料とシアル酸合成酵素を投与する方法、または転移酵素の基質となるCMPシアル酸を投与する方法(図2)が有効であることがわかる。餌に混ぜることによる経口投与も有効である。
  • 本システムにより、カイコで生産した有用タンパク質にシアル酸を高効率(約60%)に付加することができる(図3)。

成果の活用面・留意点

  • タンパク質の生理活性および安定性や、アレルギーなどを引き起こす抗原性の観点から、糖鎖にシアル酸が付加されることは重要なケースがあるが、これまでカイコでは不可能であった。本研究成果により、カイコによる有用タンパク質生産の適用可能性が広がる。
  • シアル酸の付加に限らず、必要な糖鎖を自在に付加するための糖鎖制御技術は有用タンパク質生産系において重要であるが、本研究成果はカイコにおける糖鎖制御に広く活用可能である。
  • 本システムの活用により、糖転移酵素遺伝子を組み込んだ遺伝子組換えカイコを用いて哺乳類型の糖鎖が付加されたタンパク質の生産法の開発が可能になる。遺伝子組換えカイコの作出により、糖転移酵素遺伝子を組み込んだバキュロウイルスを毎回注射(接種)する必要が無くなる。

具体的データ

図1 ヒトなどの哺乳類に見られる糖鎖(A)とカイコなどの昆虫に多く見られる糖鎖(B)の例,図2 カイコで生産する有用タンパク質の糖鎖にシアル酸を付加する方法,図3 図2の方法で糖鎖にシアル酸を付加した結果

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2012~2018年度
  • 研究担当者:立松謙一郎、瀬筒秀樹、菅沼政俊(シスメックス)、野村雄(シスメックス)、比嘉友紀子(シスメックス)、片岡由起子(シスメックス)、船隈俊介(シスメックス)、岡崎博之(シスメックス)、鈴木健夫(シスメックス)、藤山和仁(大阪大)、田村俊樹(蚕技研)
  • 発表論文等:
    • Suganuma M. et al. (2018) J. Biosci. Bioengineer. 126:9-14
    • 立松ら「哺乳動物型糖鎖付加遺伝子組換えカイコ」特開2017-136052(2017年2月3日)