低温煮繭に用いる薬剤による生糸の抱合低下と解じょの向上
要約
低温煮繭して得られた生糸の糸加工時のトラブルは、低温煮繭に用いる薬剤による生糸の抱合低下が原因と考えられる。一方、低温煮繭に用いるアルカリ剤と界面活性剤を併用した処理により解じょの向上が得られ、蛍光繭だけでなく解じょ不良繭等の繰糸への活用が期待される。
- キーワード:蛍光シルク、煮繭法、力学物性、抱合、生糸
- 担当:生物機能利用研究部門・新産業開拓研究領域・新特性シルク開発ユニット
- 代表連絡先:電話029-838-6102
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
遺伝子組換え技術を用いて作出された蛍光繭を繰糸するため、耐熱性の低い蛍光タンパク質の性状を失わない低温煮繭法が開発されている。これにより、蛍光生糸の繰製が可能となったが、実用化の加速のためには解決すべき課題が残されている。その一つとして、糸加工時のトラブルが問題となっており、その原因の解決が求められている。そこで、本研究ではこの問題点を解決するため、生糸の力学物性と繭糸間の接着性を表す抱合に対する煮繭法の影響、ならびに低温煮繭に用いる薬剤が生糸抱合と繰糸成績に及ぼす影響を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 普通品種の繭に対して行う普通煮繭(高温)と蛍光繭など耐熱性の低いタンパク質を含む繭に対して行う低温煮繭を実施し、繰製した生糸の力学物性を検討する。普通煮繭した生糸に比べ低温煮繭した生糸は強度と伸度の低下が見られ、高分子材料の粘り強さを示すタフネスの低下が認められる。しかし、繰糸以降の工程において問題となるレベルでは無いことが分かる(図1)。
- 普通煮繭と低温煮繭を実施し、繰製した生糸の抱合を検討した結果、普通煮繭した生糸に比べ低温煮繭した生糸で顕著な低下が見られる。また、低温煮繭に用いる界面活性剤とアルカリ剤の両方が生糸の抱合低下に影響を与えていることが明確である(図2)。
- アルカリ剤で処理を行うと生糸量歩合と小節点の低下が顕著である。しかし、界面活性剤を併用することにより繭の解れ過ぎが抑制され、解じょ率の向上に寄与することが分かる(表1)。
成果の活用面・留意点
- 低温煮繭により生糸の力学物性と抱合が低下し、低温煮繭に用いる界面活性剤とアルカリ剤の両方が生糸の抱合低下の一因であるという知見は、今後の蛍光シルクの実用化を加速させるための技術開発の基礎的な情報として活用できる。
- 繰糸以降の合撚糸や製織の際の糸切断や毛羽立ちの原因が、低温煮繭による抱合低下にあることが示唆されたため、生糸の抱合向上に向けた新たな煮繭法やコーティング技術等の開発が重要である。
- 解じょ不良繭を繰糸する際、アルカリ剤と界面活性剤で処理することにより、解じょ率の向上が期待される。
具体的データ
その他
- 予算区分:交付金、その他外部資金(27補正「地域戦略プロ」)
- 研究期間:2017~2018年度
- 研究担当者:伊賀正年、中島健一
- 発表論文等:伊賀ら(2019)日本シルク学会誌、27:57-63