シルクのアミノ酸配列と階層構造との関係を解析する手法

要約

シルクのX線散乱情報とアミノ酸配列情報とを定量的に結びつける手法である。本手法により、様々な生物がつくるシルクのアミノ酸配列と階層構造との関係が分かり、人工シルクのスマート素材開発に役立つ。

  • キーワード:シルク素材開発、スマート素材開発、階層構造、X線構造解析、データベース
  • 担当:生物機能利用研究部門・新産業開拓研究領域・新素材開発ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-6213
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

地球規模での脱石油社会構築が急務となる中、再生可能資源の有力な候補として絹糸昆虫のつくるシルクタンパク質が注目されている。衣料用素材の枠を超え、シルクより様々な素材創製を実現するには、階層構造と物性の因果関係を解明し、目的とする物性を構造制御により自在につくりだす必要がある。我々は、種々のシルクの階層構造と物性の因果関係をデータベース化することによる、情報技術を利用したシルクのスマート素材開発技術の構築を目標とし、放射光X線散乱法を用いた階層構造解析手法の確立ならびに種々のシルクの階層構造の解明を進めてきた。本研究では、アミノ酸配列が既に明らかにされているインドムガ蚕シルク(Guptaら、2015)の階層構造とアミノ酸配列との関係を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • ムガ蚕シルクに形成されるβ-シート結晶はポリアラニン型である(図1)。
  • ムガ蚕シルク一本のフィラメントは、7.6nmの"結晶相と非晶相の繰返し周期"を有する直径4.6nmのナノフィブリル構造の集合体である(図2)。
  • 結晶相と非晶相の周期構造に由来する電子密度分布の自己相関関数解析により明らかとなった結晶相の厚みは4.4nmであり、これはムガ蚕シルクの平均アラニン連鎖長12残基(Guptaら、2015)がβ-シート結晶を形成した際の厚みと一致する(図3)。
  • 自己相関関数解析を導入したシルクの構造解析(繊維の内部で形成される結晶と非晶の周期的な電子密度分布に対する自己相関関数解析)は世界で初めての試みであり、シルクのアミノ酸配列と階層構造を定量的に結びつけることが可能となる。

成果の活用面・留意点

  • 本研究で確立した構造解析手法は、野蚕シルクに限らず、カイコやクモのシルクなど他のシルクの階層構造解明に用いることができる。
  • 本研究で解明に至った階層構造は、構造と物性の因果関係解明に向けた有用な知見となる。様々なシルクについての成果をデータベース化することで、スマート素材開発の基礎データとして活用できる。
  • アミノ酸配列と階層構造との詳細な関係性は、人工シルク素材創製に向けての基礎的な知見として活用できる。

具体的データ

図1 ムガ蚕シルクの(a)WAXD繊維図形と(b)赤道プロファイル,図2 (a)SAXS図形と(b)子午線、および(c)赤道プロファイル,図3 (a)ムガ蚕シルクのアミノ酸配列の一部(Guptaら、2015)および(b)SAXS解析より構築したムガ蚕シルクの階層構造モデル

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(SATREPS)
  • 研究期間:2017~2018年度
  • 研究担当者:亀田恒徳、吉岡太陽
  • 発表論文等:Yoshioka T. et al. (2019) J. Silk Sci. Tech. Jpn. 27:95-101