ミノムシシルクの強さは高秩序性階層構造による

要約

ミノムシの糸はカイコやクモの糸に比べて高い秩序性階層構造から成っており、糸を引っ張った際、秩序構造は破断に至るまで維持される。この秩序構造により、糸に作用した応力は力を担うべき結晶に均一に分散され、他のシルクに比べ高い力学物性を示す。

  • キーワード:未知・未利用シルク、高機能天然繊維、ミノムシシルク、放射光X線構造解析
  • 担当:生物機能利用研究部門・新産業開拓研究領域・新素材開発ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-6213
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

地球規模での脱石油社会構築が急務となる中、多くの材料分野において、枯渇性資源から非枯渇性資源(再生可能資源)への材料転換が求められている。なかでも、絹糸昆虫のつくりだす糸(シルク)は、強度と伸度のバランスに優れた高タフネス性を示すことから、次世代構造材料候補の一つとして注目を集めている。我々のグループでは、ミノムシシルクが、構造材料の評価において特に重要視される力学物性値:初期弾性率、破断強度およびタフネスの全てにおいてカイコやクモのシルクを凌ぐことを見出し、産業利用に繋げる取り組みを行ってきた。一方で、なぜミノムシシルクが他のシルクに比べ優れた力学物性を示すのか、その本質的な理由についての科学的な裏付けが欠けていた。本研究では、放射光X線解析により、ミノムシシルクの優れた力学物性を構造面より明らかにする。

成果の内容・特徴

  • ミノムシシルクは、カイコや野蚕あるいはクモのシルクに比べ著しく高い秩序性階層構造を有し、その基本構造は、39nmの"結晶相と非晶相の繰返し周期"を有する直径4.7nmのナノフィブリル構造の集合体である(図1)。この高い秩序性階層構造により、繊維に作用する応力は力を担うべき結晶に均一に分散され、その結果、高い初期弾性率を示す。
  • 結晶相と非晶相の電子密度分布に対する相関関数解析により明らかにされた繰り返し周期の内訳は、結晶相が23nm、非晶相が16nmである(図1)。
  • ミノムシシルクが高い秩序性階層構造を形成する理由は、シルクタンパク質のアミノ酸特徴配列にあり、両者の関係性は定量的に対応づけられる(図1)。
  • ミノムシシルクの高い秩序性階層構造は延伸過程でも崩れることなく、破断までその秩序性は維持される(図2、3)。延伸過程で秩序構造が維持されることで、繊維に作用する応力は破断に至るまで一貫して結晶に均一に分散され、その結果、高い破断強度とタフネスを示す(図3)。

成果の活用面・留意点

  • ミノムシシルクの優れた力学物性が構造面より科学的に解明されたことで、産業利用を目指す取組みの加速ならびに拡がりが期待される。
  • 優れた力学物性を与える階層構造とその元となるアミノ酸特徴配列に関する知見は、タンパク質合成や遺伝子組換え生物の利用などによる強いシルクを人工的に造る場合に必要となるタンパク質一次構造の設計指標として活用できる。

具体的データ

図1 ミノムシシルクの高い秩序性階層構造,図2 延伸過程で生じる構造変化の追跡から明らかとなったミノムシシルクの優れた応力分布とその高い持続性(ならびに、カイコ、野蚕シルクとの比較),図3 ミノムシシルクおよびカイコシルクの構造モデル(左)と延伸時の構造変化のモデル(右)

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(SATREPS)
  • 研究期間:2015~2018年度
  • 研究担当者:吉岡太陽、亀田恒徳、坪田拓也、上樂明也
  • 発表論文等:Yoshioka T. et al. (2019) Nat. Commun. 10:1−11