ヒト角膜上皮の培養モデルを用いた眼刺激性試験法がOECDテストガイドラインに収載

要約

動物を使用せずに化学物質の眼に対する刺激性を判定する新しい試験法「Vitrigel-Eye Irritancy Test(Vitrigel-EIT)法)」が、国際的な公定法である経済協力開発機構(OECD)の定めた統一的な試験法(OECDテストガイドライン)に収載される。

  • キーワード:Vitrigel-Eye Irritancy Test(Vitrigel-EIT)法、コラーゲンビトリゲル®、OECDテストガイドライン、動物実験代替法、紹介動画
  • 担当:生物機能利用研究部門・ビトリゲル特命プロジェクト
  • 代表連絡先:電話 029-838-6294
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

化粧品や医薬品等を開発する際には、これらの成分として含まれる化学物質のヒトに対する安全性を確認する必要がある。このような「安全性試験」の多くは動物を用いて行われてきたが、近年、動物を使用しないヒト細胞を利用した動物実験代替法の開発が世界的に進められている。
生体内の細胞の周囲にあるコラーゲン線維は、細胞の足場として「組織を構成する骨組み」と「細胞外液の通路」の役割を果たしている。農研機構では、多細胞から構成される組織を再生する際に生体内の組織で細胞を保持している足場に注目して、この足場に匹敵する高密度コラーゲン線維網の新素材「コラーゲンビトリゲル®」を世界に先駆けて開発した後、この新素材を利用した製品等の開発を進めている。
そこで、本研究ではこの新素材を利用してヒト角膜上皮の培養モデルを作製し、この培養モデルを用いて眼に対する化学物質の高感度な安全性試験法「Vitrigel- Eye Irritancy Test(EIT)法」を開発する。これにより実験動物を用いずに、迅速かつ高感度で再現性の高い試験結果が得られると期待される。

成果の内容・特徴

  • 今回開発したVitrigel-EIT法とは、コラーゲンビトリゲル®膜チャンバーを利用してヒト角膜上皮の構造を模した培養モデルを作製し、それに化学物質を滴下した後、経上皮電気抵抗(TEER)値の変化を3分間測定するだけで、化学物質の刺激性を判定できる、というものである(図1および図2)。
  • 従来、測定に長時間かかっていた眼刺激性試験が3分でできるようになったという簡便さ、迅速性に加え、高感度で再現性が高いという点が特徴。
  • Vitrigel-EIT法については、国内3施設(一般財団法人食品薬品安全センター秦野研究所、株式会社ボゾリサーチセンター、株式会社ダイセル)でバリデーション研究を実施し、その妥当性について検証され、専門家による第三者機関の審査を経て、2019年6月にOECDテストガイドラインに収載される。
  • 今後、実験動物を用いずに簡便かつ迅速に安全性を判断できる試験法として、国内外で安全性の高い化粧品等の開発に活用されると期待される(図3)。
  • 同法の普及のため、紹介用の動画を作成している(図4)。この動画では、Vitrigel-EIT法の測定原理から実際の測定試験の様子まで非常にわかりやすく紹介されている。例えば、実験者の作業日程に配慮し、水曜日に培養実験を開始すれば、土曜日、日曜日に操作を行うことなく、翌週の火曜日に刺激性か非刺激性かを判定できることを紹介している。また、実験上の注意として、(1)細胞播種時にはチャンバー内側面のポートにピペット先端を付けて培養液を注ぐことや、(2)気相-液相培養の開始時にはチャンバー内側面のポートにチップ先端を付けて培養液を除くことなどを紹介している。以上のように、普及対象として想定している化粧品メーカーや医薬品メーカーの担当者にアピールできる内容となっている。

普及のための参考情報

  • 普及対象:化粧品メーカーや医薬品メーカー。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:日本動物実験代替法学会企画委員会主催技術講習セミナーでVitigel-EIT法を紹介し、アンケート調査を実施したところ、参加者115名のうち約8割が「Vitigel-EIT法に関心がある」と回答し、そのうち約4割が「Vitigel-EIT法実地講習会への参加を希望する」と回答した。また、共同研究先の関東化学株式会社が、日本だけでなく、化粧品の規制が厳しい欧州諸国を中心に展開を予定している。
  • その他

具体的データ

図1 コラーゲンビトリゲル膜チャンバーを用いたヒト角膜上皮モデルの作製と、その凍結切片のヘマトキシリン・エオシン染色による顕微鏡観察像,図2 眼刺激性の判定手順,図3 Vitrigel-EIT法の測定装置,図4 Vitrigel-EIT法を広く普及させるための動画

その他

  • 予算区分:農林水産省「アグリ・ヘルス実用化研究促進プロジェクト(医薬品作物、医療用素材等の開発)」(No. 6320)
  • 研究期間:2010~2019年度
  • 研究担当者:竹澤俊明、押方歩、小島肇(国立衛研)、山口宏之(関東化学)
  • 発表論文等:
    • 竹澤ら「ハイドロゲル乾燥体、ビトリゲル膜乾燥体およびこれらの製造方法」特許第5892611号(2011年8月25日)
    • Takezawa T. et al. (2011) Toxicology in Vitro 25:1237-1241
    • Yamaguchi H. et al. (2013) Toxicological Sciences 135:347-355
    • OECD (2019), TG 494: Vitrigel-Eye Irritancy Test Method for Identifying Chemicals Not Requiring Classification and Labelling for Eye Irritation or Serious Eye Damage, OECD Guidelines for the Testing of Chemicals, Section 4, OECD Publishing, Paris,
      https://doi.org/10.1787/9f20068a-en.