マメ科植物の根粒と側根の発達は共通した遺伝子が制御する

要約

マメ科植物の根にみられる根粒の形成に、植物に元々備わっていた側根の形成メカニズムの一部が流用されている。この発見により、根粒共生の成立に至る進化の一端が明らかになるとともに、今後、非マメ科植物に根粒を形成させる研究などへの発展も期待される。

  • キーワード:マメ科植物、根粒、側根、共生、進化
  • 担当:生物機能利用研究部門・植物・微生物機能利用研究領域・植物機能開発ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-7007
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

マメ科植物は、根粒と呼ばれる特殊な器官に窒素固定細菌(根粒菌)を住まわせ、ほとんどの生物が直接利用できない空気中の窒素を栄養源として利用する。この現象は「根粒共生」とよばれ、マメ科植物とマメ科に近縁な一部の植物だけで見られる。根粒共生が進化の過程でどのように獲得されてきたのかは不明である。そこで本研究では、根粒形成において重要な働きをするNINという既知の転写因子によって働きが調節される遺伝子を探索することで、根粒共生の進化の道筋を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 根粒形成において重要な働きをするNINという転写因子によって発現が調節される遺伝子を探索し、NF-Y(征矢野ら、2013)とASL18aという性質の異なる2つの転写因子を同定している。今回同定したASL18aは、シロイヌナズナやイネなどの非マメ科植物では側根を作るときに働く転写因子である。ミヤコグサにおいてASL18aは側根に加えて、根粒の元になる細胞(根粒原基)で発現する(図1)
  • ASL18aを失ったミヤコグサ変異体(asl18a変異体)では、側根の発達が抑制される(図2A)。さらにNF-YとASL18aの両方を失った変異体では、NF-Yだけを失った変異体(nf-ya1,nf-yb1変異体)で見られる根粒の発達抑制がより顕著になる(図2B)。
  • NF-YとASL18aの2つの転写因子は植物細胞内で直接結合する。また根粒が形成されないnin変異体において、ASL18aとNF-Yを同時に発現させると、根粒が形成されることから、NINがASL18aとNF-Yを活性化することにより根粒の形成を可能にすることが分かる。
  • NINはASL18a遺伝子内部の特定のDNA配列に結合し、ASL18a遺伝子を活性化する。さらにその特定の配列はダイズやインゲンなどの他のマメ科植物のASL18a遺伝子には共通して存在するが、非マメ科植物のASL18a遺伝子には存在しない(図3)。このことから、マメ科植物は進化の過程でNINが結合する配列を獲得することで、側根形成に働くASL18遺伝子を根粒形成に流用したと考えられる。
  • 以上の事から、本来は側根の形成を制御するASL18a遺伝子が、根粒菌が根に感染するとNINの指令により働きはじめ、ASL18aとNF-Yとが相互作用しながら根粒の発達を制御することが明らかとなる(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 本研究で明らかとなった遺伝子を起点にさらに研究を掘り下げることで、根粒共生の進化の過程のさらなる理解や非マメ科植物に根粒を形成させるような挑戦的な研究への展開が期待される。

具体的データ

図1:ASL18a遺伝子は側根形成時と根粒形成時に誘導される,図2 (A) ASL18aの側根における機能,図3 ASL18a遺伝子の構造とマメ科植物のASL18遺伝子にあるNIN結合DNA配列,図4 根粒形成と側根の形成は共通の遺伝子ALS18aによって制御される

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2012~2019年度
  • 研究担当者:征矢野敬(基生研)、下田宜司(農研機構)、川口正代司(基生研)、林誠(理研)
  • 発表論文等:主要成果4件以内。
    • Soyano T. et al. (2019) Science 366:1021-1023
    • Soyano T. et al. (2013) PLOS Genet. 9:e1003352