イネ由来のトリケトン系除草剤抵抗性遺伝子
要約
日本型イネのHIS1(ヒスワン)遺伝子のコードするタンパク質は、トリケトン系除草剤を水酸化し、除草剤としての機能を失わせる。一部のインド型イネではHIS1遺伝子の機能が欠損しており、これらに由来する多収米品種などでは、トリケトン系除草剤処理によって苗が枯死する。
- キーワード:飼料用稲、多収米品種、雑草防除、分子機構、4-HPPD阻害型除草剤
- 担当:生物機能利用研究部門・遺伝子利用基盤研究領域・組換え作物技術開発ユニット
- 代表連絡先:電話 029-838-8361
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
これまでSU剤などの単一除草剤成分の長期間施用の結果、耐性雑草の発生が問題となってきた。この問題への対策として、新たな作用機作を持つトリケトン系成分の4-HPPD阻害型除草剤が開発され、水田作においても利用が進んでいる。この成分は、植物体内で植物色素カロテノイドの合成に間接的に関わる酵素4-HPPDを阻害するはたらきがあり、雑草を白化して枯死させる。しかし、インド型イネとの交配によって育成された飼料用稲などの多収米品種では、トリケトン系除草剤の施用によって苗が白化して枯死する。そこで、トリケトン系除草剤抵抗性の品種開発や栽培管理技術を確立するため、この原因遺伝子を同定し、その作用機作を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 抵抗性品種と感受性品種(図1)の交雑後代を用いた解析によって同定したトリケトン系除草剤抵抗性を支配する遺伝子HIS1(4-HPPD INHIBITOR SENSITIVE 1)は、新規の2価鉄イオン・2-オキソグルタル酸依存型酸化酵素をコードする。「タカナリ」などの感受性品種では、28塩基対の欠失によってHIS1が機能を欠損している。また、抵抗性品種「日本晴」において、HIS1遺伝子にレトロトランスポゾンTos17が挿入し機能を欠損した系統は感受性となる。
- 感受性品種「やまだわら」において抵抗性品種型のHIS1を過剰発現させると、ベンゾビシクロン、メソトリオン、テンボトリオンなどのトリケトン系除草剤に抵抗性となる(図2)。双子葉植物であるシロイヌナズナにおいても、HIS1の過剰発現によってトリケトン系除草剤に抵抗性となる。
- HIS1に類似性の高い遺伝子(HIS1-LIKE:HSL)はイネゲノム中に6個存在し、それらの多くについて、イネ以外のイネ科植物にもHSL遺伝子が存在する(図3)。
- HIS1タンパク質は、トリケトン系除草剤を水酸化し、除草剤としての機能を失わせる。「コシヒカリ」などの日本型水稲品種ではHIS1が機能するため、これらの除草剤を不活化して正常に生育するが、雑草やインド型イネ品種およびそれらに由来する多収米品種では機能型のHIS1が存在せず、除草剤の作用により白化・枯死する(図4)。
成果の活用面・留意点
- HIS1遺伝子の情報に基づいた品種選定を行うことにより、トリケトン系除草剤による多収米品種等の白化・枯死問題を回避することができる。
- 各々の作物に固有なHSL遺伝子の情報を利用することにより、幅広い作物への適用も可能である。
- 紫黒米や赤米などの有色素米品種や飼料用品種など、食用品種への混入が懸念される品種に機能欠損型HIS1を導入することにより、トリケトン系除草剤を用いた種子混入、漏生籾対策が可能となる。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金、競争的資金(イノベ創出強化)
- 研究期間:2009~2019年度
- 研究担当者:
吉田均、前田英郎、村田和優(富山県農技セ)、佐久間望(埼玉大)、武井里美(埼玉大)、山崎明彦(SDSバイオテック)、Md. Rezaul Karim、川田元滋、廣瀬咲子、川岸万紀子、谷口洋二郎、鈴木悟(SDSバイオテック)、関野景介(SDSバイオテック)、大島正弘、加藤浩、戸澤譲(埼玉大)
- 発表論文等:
- Maeda H. et al. (2019) Science 365:393-396
- 加藤ら「4-HPPD阻害剤に対する抵抗性又は感受性が高められた植物」特開2012-550943(2012年7月5日)