ゲノム編集を用いたイネカルスへのβカロテン蓄積
要約
ゲノム編集により、イネorange遺伝子(Osor)の遺伝子構造を変化させることにより、本来βカロテンの蓄積がみられないイネカルスにβカロテンを蓄積させることができる。
- キーワード:ゲノム編集、イネカルス、orange遺伝子、βカロテン
- 担当:生物機能利用研究部門・遺伝子利用基盤研究領域・先進作物ゲノム改変ユニット
- 代表連絡先:電話 029-838-8361
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
発展途上国ではビタミンA欠乏が問題となっているため、主要作物にビタミンAの前駆体であるβカロテンを高蓄積させることが重要な課題となっている。これを解決するために、遺伝子組換え法を利用して、βカロテンを高蓄積する「ゴールデンライス」が開発されている。一方、カリフラワーの解析から、orange遺伝子のスプライシングが異常となったアリルが優性的に発現することによりβカロテンが花蕾に高蓄積することが報告されている。
そこで、本研究ではゲノム編集を利用し、イネのorange遺伝子(Osor)を改変することにより、βカロテン蓄積量の増大を試みる。
成果の内容・特徴
- イネカルスにおいて、人工制限酵素CRISPR/Cas9を利用し、Osor遺伝子の第3エキソンと第3イントロンの間にあるスプライスジャンクション部位に変異を導入する(図1)。これにより、標的部位に様々な変異が確認されるが、そのうち一部の系統ではOsor遺伝子におけるスプライシングが異常となり、イントロン配列の一部がインフレームに挿入された転写産物が生成される。(図2)。
- 上記のOsor遺伝子にイントロン配列がインフレームで挿入された系統では、カルスにβカロテンが蓄積し、オレンジ色に着色する(図3)。
成果の活用面・留意点
- ゲノム編集等を利用し、同様の方法でorange遺伝子に機能獲得型変異を導入することで、他の作物でもβカロテンを高蓄積できると期待される。
- Osor遺伝子に加え、βカロテンの合成に関与する遺伝子の発現等をゲノム編集で改変することにより、イネ種子でもβカロテンを蓄積できる可能性がある。
- これまでに開発されたβカロテンを高蓄積する作物に適用することで、更にβカロテン蓄積量を増加できる可能性がある。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金、その他外部資金(SIP)
- 研究期間:2015~2019年度
- 研究担当者:遠藤亮、雑賀啓明、竹村美保(石川県立大)、三沢典彦(石川県立大)、土岐精一
- 発表論文等:Endo A. et al. (2019) Rice 12:81