ゲノム編集を利用して明らかにしたカイコ卵形成遺伝子の機能
要約
カイコのbmPGESタンパク質の発現解析から、本タンパク質は卵巣の濾胞細胞に局在する。ゲノム編集を用いた機能解析により、bmPGES遺伝子の変異体では卵のサイズが小さくなることから、bmPGES遺伝子は卵形成に関わっており、新規昆虫制御剤の開発などに利用できる。
- キーワード:カイコ、ゲノム編集、TAL-PITCh法、卵形成
- 担当:生物機能利用研究部門・新産業開拓研究領域・カイコ機能改変技術開発ユニット
- 代表連絡先:電話 029-838-8361
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
プロスタグランジン(PG)は様々な生理活性を持つ物質であり、多数の異性体が存在することが知られている。その一つであるPGE2は、近年昆虫において産卵行動などに関与していることが明らかにされているが、カイコでの詳細な機能は不明である。
ゲノム編集技術は、標的遺伝子を高精度かつ高効率で改変できる技術であり、近年大きな注目を浴びている。カイコではTALENがきわめて効率よく機能し、様々な遺伝子でノックアウトを起こすことが可能である。また、TALENを応用した「TAL-PITCh法」を利用することで、GFP遺伝子などをカイコゲノムの狙った位置に挿入することも可能である。本研究では、PGE2の合成酵素であるbmPGESタンパク質の発現解析を行うとともに、TAL-PITCh法を用いてGFPで選抜可能なbmPGES遺伝子のノックアウト系統を作出し、機能解析を行う。
成果の内容・特徴
- 免疫染色により、カイコbmPGESタンパク質は卵巣の濾胞細胞に局在している(図1)。
- TAL-PITCh法を用いて、GFPで選抜可能なbmpges遺伝子のノックアウト系統が作出できる(図2, 3)。
- ノックアウト系統では、卵のサイズが小さくなる。また、bmpges遺伝子の発現量の低下やPGの量の低下が見られる。
成果の活用面・留意点
- TAL-PITCh法は様々な遺伝子の機能解析に用いることが可能である。
- TAL-PITCh法によりGFPなどを挿入することで、変異体を容易に判別することが可能になり、変異系統の選抜および維持が大幅に省力化される。
- bmPGES遺伝子が卵形成に機能することが明らかになり、この知見は新たな昆虫制御剤の開発などに利用できる。
具体的データ
その他
- 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
- 研究期間:2015~2019年度
- 研究担当者:
坪田拓也、瀬筒秀樹、山本幸治(九州大)、宇野知秀(神戸大)、辻田裕太郎(九州大)、横田慎吾(九州大)、三田和英(中国・西南大)
- 発表論文等:Yamamoto K. et al. (2020) Biochem. Biophys. Res. Com. 521:347-352