タンパク質の質量分析によるカイコに感染する微胞子虫の簡易同定法の開発

要約

生体を構成するタンパク質の成分を調べることにより、カイコに感染する微胞子虫を迅速簡便に検出・同定する。これまで微胞子虫を検出、同定するのに高度な技術や日数を要したが、本手法では熟練なしに数分で分析が可能である。他の生物に感染する微胞子虫の検出にも応用できる。

  • キーワード:昆虫制御、微胞子虫、MALDI-TOF MS、簡易検出法
  • 担当:生物機能利用研究部門・昆虫制御研究領域・昆虫微生物機能グループ
  • 代表連絡先:電話 029-838-8361
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

微胞子虫は菌類に属する単細胞の真核生物であり、カイコに感染すると、絹糸や有用物質の生産率が低下する。本病害を防ぐためには感染した虫を早期発見して除去することが重要であるが、微胞子虫は微小であることから検出が困難であり、本病害は初期症状が現れにくいことから、感染虫の早期の除去は困難であった。さらに微胞子虫は水平伝搬だけでなく経卵伝搬もするため、一度感染すると次世代にも感染する。このことがさらに防除を困難にする要因になっていた。微胞子虫の検出、同定には高度な技術が必要であり、日数もかかることから、多くの労力と時間を要する。さらに近年、微胞子虫を検出、同定できる専門家が減少しており、微胞子虫が発生して障害が生じても原因がわからない状況もみられるようになった。以上のことから微胞子虫を簡易的に検出、同定できる方法が必要とされていた。そこで本研究では微胞子虫を構成するタンパク質を解析するといった、これまでにない手法を用いることにより、迅速に微胞子虫を検出、同定する方法の開発を試みた。

成果の内容・特徴

  • MALDI-TOF MS法によるタンパク質の質量分析技術を微胞子虫の分類に応用したものである。本手法によって微胞子虫を構成するタンパク質により種のレベルで分類できる(図1)。
  • 簡易精製(図2)することによって罹病虫からも微胞子虫の検出が可能になった(図3)。
  • これまで熟練技術や長時間を要していた微胞子虫の検出、同定が10分以内で容易にできるようになった(図4)。
  • 感度が高いことから、供試サンプル量が微量ですむ。
  • 1検体あたりの調整にかかるランニングコストは5円程度である。
  • 自動化することで終日稼働が可能であり大量のサンプルの解析が可能である。

成果の活用面・留意点

  • 微胞子虫はカイコ以外の昆虫にも感染するため、有用昆虫に感染する微胞子虫の検出、同定に応用が可能である。
  • 微胞子虫は農業害虫、貯穀害虫、衛生害虫にも感染するものがあり、これらの昆虫に感染させてその被害を抑制するといった利用も検討されていることから、これらの昆虫への感染の確認に応用できる。
  • 昆虫に感染する微胞子虫以外の微生物の検出にも応用できる。
  • 昆虫の種によってはMALDI-TOF MS法で解析する前に昆虫由来のタンパク質を除去するための簡易精製が必要な場合がある。
  • MALDI-TOF MSが必要だが、国内150ヶ所以上の臨床検査室、大学、研究機関に設置されている。検体の処理が容易であることから、当機構を含むこれらに送付することで分析できる。

具体的データ

図1.微胞子虫種別のMALDI-TOF MSスペクトル,図2.精製法による感染虫からの検出差異,図3.精製微胞子虫と感染虫から検出した微胞子虫とのスペクトル比較,図4.これまでの検出法との比較

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(大日本蚕糸会 貞明皇后助成金)
  • 研究期間:2018~2019年度
  • 研究担当者:村上理都子、梶原英之
  • 発表論文等:Kajiwara H and Murakami R (2019) J. Invertebr. Pathol. 166:107223