殺虫活性が期待されるRNA制虫剤候補遺伝子

要約

昆虫の表皮形成に必須とされるmulticopper oxidase 2 (MCO2)の発現を、二本鎖RNAの注入によるRNAiで阻害すると幼虫では全てが致死となる。メス成虫にRNAiを行うと、産下した卵に対しての持続的な殺虫活性を示す。MCO2遺伝子を標的にすることで、新規制虫剤の開発が期待される。

  • キーワード:multicopper oxidase (MCO)、laccase、カメムシ、殺虫活性
  • 担当:生物機能利用研究部門・昆虫制御研究領域・昆虫微生物機能ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-8361
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

既存の農薬には、近年の抵抗性の発達などの問題があり、新規農薬の作用点の開発は喫緊の問題となっている。そこで、昆虫の表皮形成に関与し生存に必須とされるMCO2、機能未知だが生存に必須であるMCO6などを含むMCO遺伝子群に着目し、果樹の害虫であるチャバネアオカメムシを用いて研究を行う。本研究では、RNAiと呼ばれる遺伝子発現を抑える技術を用いて、MCO遺伝子群の各遺伝子の機能推定とその殺虫活性を評価する。

成果の内容・特徴

  • 次世代シーケンサーを用いた発現遺伝子解析から、チャバネアオカメムシは7つのMCO遺伝子を持つ。
  • チャバネアオカメムシにおいてMCO2の遺伝子発現をRNAiによって阻害すると、3齢幼虫にも終齢(5齢)幼虫にも高い殺虫活性がある(図1)。一方で、他のMCO遺伝子6つに関して殺虫活性は見られない。
  • メス成虫に二本鎖 RNAを注入し、RNAi によってMCO2遺伝子の発現を阻害すると、それらのメスが産下した卵の孵化率が90%以上低下する(図2)。また、この効果は注入後2週間以上高く維持され、4週間後でも効果は低下するものの効果は持続する(図2)。
  • 以上の結果から、MCO2のRNAiは昆虫の発育段階を問わずに高い殺虫活性を持つ。

成果の活用面・留意点

  • 本研究成果は、直接、害虫を殺す技術の開発に関する成果でなく、昆虫制御のターゲットとなり得る遺伝子・タンパク質の発見である。
  • MCO2遺伝子は昆虫全般が持つことから、昆虫で保存性の高い領域を標的にしてRNAiを引き起こすことができれば、他の昆虫でも制御標的になると期待され、汎用性は高い。一方、MCO2遺伝子の保存性の低い領域を用いてRNAiを引き起こすことができれば、種特異性を高めて制虫効果を発揮できる可能性がある。

具体的データ

図1 3齢幼虫でのRNAiの効果と、終齢(5齢)幼虫でのRNAiの効果,図2 MCO2のRNAiを起こしたメス成虫から産下された卵の孵化率

その他

  • 予算区分:交付金、部門目的基礎(2017年度)、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2017~2019年度
  • 研究担当者:
    西出雄大、陰山大輔、畠山正統、横井翔、上樂明也、田中博光、古賀隆一、二橋亮、深津武馬(産総研)
  • 発表論文等:
    Nishide Y. et al. (2020) Sci. Rep. 10:3464
    doi:org/10.1038/s41598-020-60340-8