昆虫の不妊化に有効な細胞死誘導エフェクター因子

要約

哺乳類の細胞死因子Baxを組織特異的発現Gal4依存的に発現させることにより、カイコ各組織に細胞死を誘導できる。また、蚊の精巣のみにBaxを発現させると、不妊オスとなる。このシステムは、有用系統の流出防止や害虫防除に利用できる。

  • キーワード:昆虫改変、遺伝子組換え、アポトーシス、細胞死、Bcl-2タンパク質
  • 担当:生物機能利用研究部門・新産業開拓研究領域・カイコ機能改変技術開発ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-6102
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

細胞死誘導システムとは、特定の組織にアポトーシスを誘導して細胞を殺す技術である。これは、たとえば発生生物学や神経生物学において細胞の持つ機能を明確にするための強力なツールとして利用できる。しかしながら、従来の仕組みでは、種特異性や組織特性の問題から、昆虫で広く応用できる仕組みの開発には至っていなかった。本研究では、哺乳類の遺伝子を利用して、どのような昆虫でも特定の細胞・組織を選択的に除去することができるエフェクター因子を開発し、この因子によって昆虫の不妊化が可能であるか検証する。

成果の内容・特徴

  • 本システムは、Gal4-UASによるバイナリシステムにより、特定の細胞に哺乳類のBcl-2タンパク質Baxを発現させるものである(図1)。カイコを用いてGal4依存的にBaxタンパク質を発現させると、特定の組織のみに細胞死を誘導することができる(図2)。
  • 病気媒介蚊のオス生殖細胞特異的発現プロモーターを新たに単離する(図3A)。このプロモーターにBaxを作用させた組換え蚊は、精子が発達せずオス不妊になる(図3B)。組織特異的プロモーターを開発することで、様々な昆虫の基礎研究や不妊化が可能となる。

成果の活用面・留意点

  • 様々な昆虫で、組織を問わず細胞死を誘導できる汎用性の高いシステムである。特に、本研究では、病気媒介昆虫(蚊)のオスを不妊化できることを示している。
  • カイコにおけるメス致死や不妊化は、遺伝子組換え有用系統の流出防止のために有用な仕組みである。本研究のシステムは、そのような仕組みの開発に役立つ。
  • 不妊化には、生殖に関わる組織特異的プロモーターの開発が不可欠であるが、近年の遺伝子発現解析技術の躍進により、それらの単離も簡便になると予想される。

具体的データ

図1 バイナリーシステムを用いた不妊化昆虫作成法の模式図,図2 mBaxのカイコにおける細胞死誘導の効果,図3 mBaxの病気媒介蚊を用いた不妊化オス作出の実証実験

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費基盤C)
  • 研究期間:2013~2019年度
  • 研究担当者:笠嶋(炭谷)めぐみ、瀬筒秀樹、山本大介(自治医大)、笠嶋克己(自治医大)、加藤大智 (自治医大)
  • 発表論文等:
    • Yamamoto DS*, Sumitani M* et al. (2019) Sci. Rep. 9:8160 (*equal contribution)
    • Sumitani M et al. (2015) Insect Molecular Biology 24:671-680
    • 笠嶋ら「細胞死誘導ベクター及びそれを有する部位特異的細胞致死誘導カイコ系統」特許第6541173号(2015年2月6日)