チャノコカクモンハマキのテブフェノジド剤の抵抗性個体を判別する遺伝子診断法

要約

チャ害虫のチャノコカクモンハマキのテブフェノジド剤抵抗性の主要因であるエクダイソン受容体のアミノ酸変異(EcR A415V)の遺伝子型を検出して抵抗性個体を判別する遺伝子診断法である。テブフェノジド剤抵抗性を簡便かつ迅速にモニタリングできる。

  • キーワード:Adoxophyes honmai、テブフェノジド剤、抵抗性、エクダイソン受容体、PCR-RFLP法
  • 担当:生物機能利用研究部門・昆虫制御研究領域・昆虫機能制御ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-6071
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

チャの重要害虫であるチャノコカクモンハマキAdoxophyes honmai Yasudaは、近年、静岡県内の茶産地において多発傾向を示しており、この影響で農業被害が深刻化し、国内における推定年間被害金額は約23.4億円である。本種の防除には、環境に優しいテブフェノジド剤などのジアシルヒドラジン系昆虫成長制御剤(DAH系IGR剤)が主要な殺虫剤として用いられている。DAH系IGR剤は、昆虫の脱皮ホルモン(20ヒドロキシエクダイソン)が結合するエクダイソン受容体(EcR)に特異的に作用して食害の停止や脱皮異常を起こす。しかし、静岡県においてDAH系IGR剤に対する抵抗性発達が確認され、抵抗性個体群の分布拡大の懸念やそれに伴う防除対策が強く求められている。
そこで本研究では、次世代シークエンサー等を用いて、チャノコカクモンハマキのテブフェノジド剤抵抗性原因遺伝子および抵抗性遺伝子マーカーを同定する。また、抵抗性遺伝子マーカーの遺伝子型を検出して抵抗性個体を判別する簡便な遺伝子診断法を開発する。

成果の内容・特徴

  • テブフェノジド剤に対する抵抗性遺伝子マーカーとして同定されたEcR遺伝子は、抵抗性系統では塩基配列の1244番目がシトシン(C)からチミン(T)に置換(C1244T)されることにより、アミノ酸配列の415番目がアラニンからバリンに置換(A415V)されている(図1)。
  • 表1に示したEcR A415Vを含む領域を増幅するプライマーセットおよび感受性アリルを特異的に切断する制限酵素を使用したPCR-RFLP法により、EcR A415Vの遺伝子型について、抵抗性ホモ型、抵抗性感受性ヘテロ型、感受性ホモ型の個体識別が可能である(図2)。
  • 圃場個体群において、本法により判定したEcR A415Vの抵抗性遺伝子頻度はテブフェノジド剤に対する補正死虫率と高い相関が認められる(図3)。したがって、本法で検出した抵抗性遺伝子頻度から個体群の抵抗性レベルを推定できる。

成果の活用面・留意点

  • 従来の生物検定法では生きた幼虫でしか薬剤感受性を判定できなかったが、本法は、虫の生死に関わらず、幼虫だけでなくフェロモントラップで採取された成虫にも適用可能であり、テブフェノジド剤抵抗性レベルを簡便かつ迅速にモニタリングすることができる。
  • 本抵抗性の補助的要因として解毒分解酵素(P450)の発現上昇が挙げられ、抵抗性の程度の差に関与している。
  • 本法を用いたテブフェノジド剤抵抗性のモニタリングは、今後、テブフェノジド剤の使用継続の可否等を判断する薬剤抵抗性管理および防除対策に活用できる。

具体的データ

図1 エクダイソン受容体の塩基配列およびアミノ酸配列の変異,表1 PCR-RFLP法に使用するプライマーの塩基配列,図2 PCR-RFLP法によりEcR A415V変異の有無を検出する遺伝子診断法,図3 EcR A415V抵抗性遺伝子頻度とテブフェノジド剤に対する補正死虫率の相関

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(次世代ゲノム)
  • 研究期間:2013~2018年度
  • 研究担当者:
    浅野美和、上樂明也、横井翔、秋月岳、末次克行、小林徹也、山村光司、篠田徹郎、内山徹(静岡県農林技術研究所)、小澤朗人(静岡県農林技術研究所)、南沙紀(京都大農)、石塚千遥(京都大農)、中川好秋(京都大農)、大門高明(京都大農)
  • 発表論文等:
    • Uchibori-Asano M. et al. (2019) Sci. Rep. 9:4203
    • Uchibori-Asano M. et al. (2019) Appl. Entomol. Zool. 54:223-230
    • 浅野(内堀)ら(2019)植物防疫、73(10):2-6